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定石を超える

「高速道路を突っ走って快適に目的インターチェンジに到着した。
やっぱり高速道路はありがたいなぁ、と思っていたら料金所から先が大渋滞だった。それが今の将棋界のイメージ」というようなことを、羽生善治(はぶ よしはる)元七冠王が語っていた。

パソコンやインターネットの影響は棋界にもおよび、過去の棋譜や最新譜がだれでも簡単に入手できるようになった。
一定レベルまでは誰もがすぐに上達できるようになったということだ。
昔とちがって一人で盤面に向かい研究する必要はなく、インターネットでプロ・アマ問わず対戦相手を探しだし、腕をみがくことが可能なのだ。

最新かつ最強の定石も学べるわけだから、誰もが容易に高速道路で目的地に行ける。だが問題は、そこから先だ。

対局者のうちのどちらかがあえて定石を外した手を打つ。そこからいよいよ過去の棋譜が存在しないから、記憶は頼りにならない。イマジネーションの戦いに突入する。

経営もある意味、同じだろう。より良い経営を行うための知識や情報は昔より簡単に手に入る。経営者の知的水準は100年前より相当進歩したことだろう。だが、問題は競争相手もレベルアップしたということだ。相対性の中で比較されるわけだから、定石通りの経営をやっているだけでは中級レベルまでは上達できても決してプロの上級に到達することはできない。

美しいことだけが人気女優の条件ではないはず。仮に醜くとも光る個性があれば良い。経営もそうだ。

仮に、次の二人の社長がいたとする。

<A社長>
おかげさまで当社は無借金で、自己資本比率も90%近くある健全財務の会社です。仕事はキツイですが大口の客先があって毎月安定した売上があります。でも、新分野への投資とか開発を行ってこなかったので、5年前と変わらないことをやっています。でも、もし売上が減ってきたら、経費削減や人員削減などして存続していけると思います。

<B社長>
うちは借金だらけです。自己資本比率は10%未満で、税理士の先生から借金返済を急ぐよう指導されています。でも、もっと良いモノを作るためには、これからも利益の中から返済可能な範囲で目一杯借金し、業界を変え、お客の暮らしを変えるような会社になりたいと思います。

テストの模範解答ではA社長に軍配があがるが、実際はどちらの会社が勝つかわからないのが経営だ。
まず常識や定石を知っておくことは大切だが、同時にどこかでそれを破る意思決定も重要なのだ。