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社長のコンピテンシー

「経営力を高めるにはどうしたら良いですか?」という質問を受けるとハタと困ってしまう。とても難しい質問なのだ。
まず、「経営力」という言葉の意味をその方がどのように理解し、用いているのか分からない。

ある人は目標設定とその達成力という意味で経営力という。
ある人は、管理力がすなわち経営力だと思っている。
別のある人は、経営力とはリーダーシップを発揮し、社員を鼓舞して組織を引っ張っていくことだと考えている。
それらはいずれも間違ってはいないのだが、経営力の全てではなく、一部分に過ぎないのだ。

経営力を高めるための処方箋を書けるのは、最終的には当のご本人だけだと思うが、ヒントになるものは幾つかある。
そのひとつとして、「社長としてのコンピテンシー」を身につけるという発想はいかがだろうか。

数年前から盛んに使われるようになったコンピテンシーという概念は、もともとは、ハーバード大学のマクレランド教授が1973年に発表した理論が発端となっている。教授は、人間の業績や人生の成功予測は、知識や学力で測ることは出来なく、コンピテンスの確認が必要だと理論づけたのだ。

コンピテンスとは、成功者や規律ある人たちがもっている特性や因子のことであり、それらを明らかにしていくことで、他の人たちに努力の方向性を具体的に示すことができるものなのだ。

すわッ!
とばかり、企業の人事部門がこの理論に注目した。

もし成功する社長のコンピテンシーが明らかになれば、それは画期的なことである。

しかし、アイデアはすばらしいのだがコンピテンシーの料理法がなかなかむずかしい。コンピテンシーとは本来、氷山の一角ではなく海に隠れている部分に光を当てなければならないものだ。
例えば、「成功者は社交的だ」という氷山の一角だけをみて、「成功者になるには社交的であるべし」などと早合点してはならない。

成功者が社交的なのはなぜか、偶然か必然か、その動機は?
などと究明していく必要がある。そこにある答えがコンピテンシーであって、社交的か否かという行動特性そのものは本来コンピテンシーとはいわない。

このように、コンピテンシーの料理法には注意が必要なのだが、参考になるものがここにある。
あいにく出典先を失念してしまったが数年前に、あるビジネス雑誌に次のようなコンピテンシー紹介がされていたのだ。

1.自己に関するコンピテンシー
(1)現状認識力 (2)自己コントロール力 (3)自己表現力
(4)ストレス抵抗力 (5)環境適応力 (6)率直性
(7)遵法精神 (8)成長意欲

2.対人(顧客)に関するコンピテンシー
(1)対人影響力 (2)対人感受性 (3)マンパワー結集力
(4)顧客志向性 (5)政治力 (6)強制的指導力
(7)人材育成力 (8)人間関係構築力

3.成果に関するコンピテンシー
(1)専門知識・技術 (2)達成志向性 (3)問題処理能力
(4)一貫性 (5)徹底力 (6)コスト意識
(7)組織献身性 (8)チャレンジ性

4.戦略(計画)に関するコンピテンシー
(1)決断力 (2)計画立案能力 (3)計画遂行力
(4)戦略志向性 (5)論理的思考力 (6)計数処理能力
(7)課題設定能力 (8)先見性

5.情報に関するコンピテンシー
(1)問題意識 (2)情報収集力 (3)情報分析力
(4)情報発信力 (5)ほうれんそう力 (6)コンセプト構築力
(7)問題解決力 (8)創造性

6.時間(効率)に関するコンピテンシー
(1)タイムマネジメント力 (2)集中力 (3)几帳面さ
(4)パターン化志向性 (5)ネットワーク思考 (6)追求性
(7)即応力 (8)テクノロジー

よく整理されたものだと思う。

これらのコンピテンシーの全てが社長に求められているわけではない。仕事の内容や期待される成果によって必要なコンピテンシーが変わってくるわけだ。

さて昨日の質問者。

「将棋に棋力が必要なように、経営者には経営力が必要。経営者に必要なことは、儲かる会社を作ることであって、立派な人格者になることではないと思う」

という考えは、間違っていることがおわかりだろう。儲かる会社を作るのもひとつのコンピテンシーだし、人としての器量を広げていくことも社長の大切なコンピテンシーなのだ。順序の後先の問題ではない。