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木の五衰

文豪・幸田露伴が「木の五衰」ということを伝えている。

第一は、木が生長して繁茂してくると「懐の蒸れ(ふところのむれ)」というものが始まる。枝葉が茂ったおかげで風通しが悪くなり、蒸れはじめる。そうすると、酸素の代謝が悪くなるとか、害虫が付きやすくなるなどの問題が出始めるのだ。

「懐の蒸れ」の結果、第二には木が伸びなくなる。これを「末止まり(うらどまり)」という。つまり、ここで成長が止まるのである。

そうすると、第三には「裾上がり(すそあがり)」が始まる。本来の成長過程にある木ならば、根は深く広く広がらなければならない。だが、裾上がりとは、根が地表に出てしまい、早くから傷ついたり腐ったりする。

裾上がりした木は、やがて根っこからではなく木の上部から枯れ始める。これを第四の「末枯れ(すえがれ)」という。

最後の第五は、「虫食い」だ。末枯れまでいった木は害虫によって完全に枯れていく。最初から害虫にやられたように思われがちだが、その前に第一、第二、第三、第四の段階があるのだ。

人間も企業も、真の実力を培うのは根っこに相当する部分だ。私たちの根っこは広く、太く、地表の奥深くに沈潜しているだろうか。「末止まり」や「裾上がり」を起こしていないか。

実力はある、だが世間ではまったくの無名という時代が必要だ。まずは売名することが流行のように思えるが、順序は逆である。これは、「今日の言葉」で紹介した牛尾治郎氏のことばとも相通ずる話ではないか。
ビジネスでは、一度も苦労せずに成功するということは滅多にない。うまくいかない、予定が狂う、計算通りにすすまない・・・・。

その時に問われるのは、あなたの志の強さや、ねばり強い精神力、創意工夫して改善に努める向上心や技術力・知識力など、すべてがあなたの根っこに関わることだ。「木の五衰」、肝に銘じておこう。

(参考:『孟子』 安岡正篤著 MOKU出版)