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M社長の第二創業

「どうして君の会社、工賃仕事なのにそんなに儲かるの?」

と経営者仲間に聞かれるM氏(37才)は、自動車部品製造を営む二代目社長。

実は、Mさんはたった二年前までは、まったく逆のことをよく聞かれたという。
「どうして君の会社はそんなに儲からないの?」と。

事実そのころは、低収益、資金繰り難にあえいでいた。「これが工賃仕事の宿命なのか」となかば悟りを開きつつあったある日、M氏の転機が訪れる。

二年前、Mさんは中部地区本社の某菓子メーカーの社長に出会う。
高収益で有名なこの菓子メーカーの社長を前にして、M氏は思い切って苦しい台所事情を告白した。すると、やさしい言葉づかいながら、衝撃的な内容の答えが返ってきた。

「そんなに苦しくて、そんなに儲からないのなら、会社経営などやめてサラリーマンになりなさい。そのほうがよっぽどみんなのためになるから」

ガツーンときたMさんは、悔しさまぎれにいろいろと質問を続けた。
すると、その菓子メーカーでは、賞与や福利厚生なども考慮すれば、アルバイトの時間給でも5千円になることがあると聞いてびっくりした。
Mさんの会社では、正社員の幹部ですら半額の時間給2,400円にしかならなかったからだ。

「儲からない会社を営むということは、社員の人生も不幸にする」と気づいたMさんは深く反省した。
「きっと工賃仕事でも高収益企業が作れるはずだ」と勉強を開始。この二年前の決心が、M氏とM社にとっての『第二の創業』となった。

今では従業員20名、年商2億円で2,800万円の経常利益をたたき出す会社を作った。
「格闘はまだ始まったばかりです」とMさんは謙遜するが、見事な挑戦ぶりだ。

この二年間、どのような取り組みをしたのかを尋ねてみた。

・・・
まずは私も含めた社内の意識改革です。儲かる会社を作ろうということと、社員やパートさんに向かっては、「きちんとした立場できちんとした仕事をしよう。そして、きちんと収入がとれるようになろう」という訴えをしました。小さい町工場でも正社員になって幹部になれば、年収一千万円プレーヤーが出ても不思議ではない、と言い続けました。そうじゃなきゃ、つまらないでしょ。
また、達成したい利益額や利益率を明確に決めました。そこから逆算して、顧客に請求したい工賃を算出。そして、それにふさわしい仕事ぶりを社内で作り上げていきました。当然、仕事は以前にくらべて難易度が高く、特殊性のあるものに変わっていきました。
・・・

この話を横で聞いていた高齢社長が質問した。
「今の資金繰りはどう?やっぱり楽になった?」

Mさんは笑顔で答える。「ええ、努力した分だけね。」

高齢社長の独り言が聞こえた。

「僕も会社を作って20年、よくも漫然と経営してきたものだ。たった二年でそれほどの変身ができるというのなら、今からでも遅くない。オレもやるよ!」