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北奔南走記

今、熊本空港から市内に向かうタクシーでこれを書いている。古い意味で「男が男らしく、女が女らしい」と言われた九州だ。女性が洗濯物を干すときには、男性のものを上に、女性のものを下に吊すと聞いたことがある。それは本当だろうか?

「運転手さん、良いお天気ですね」空港タクシーに乗り込み、さっそく話しかけてみた。

「はい、よか天気になりました。おとといまでは、寒かばってん・・」
60年配のTさんの語り口はいかにも熊本的だ。車窓の外に延々とつづくビニルハウスでは、スイカを作っているという。

「ところで運転手さん、洗濯物の話は本当なの?」と男性王国ぶりを尋ねたところ、
「う~ん。お客さん、そんな話は聞いたことがない。芸能界でも水前寺清子、石川さゆり、八代亜紀、など熊本出身の女性だけががんばっている。男では、コロッケと内村(ウッチャン・ナンチャン)くらいだ。ましてや、洗濯物の話は聞いたことがない。もし、それをいまの女性に話したら、『あんたが干しなっせ(干しなさい)』といわれるのがオチですわ。うゎワッハッハ」

「名物にうまいものなし」というが、熊本名物はうまいらしい。馬刺、からしレンコン、焼酎、などが有名で、馬刺などは常に食すそうだ。

ところ変われば文化がかわる。今朝まで北の札幌で非凡会と小樽観光、ススキノでがんばっている女性たちの応援、そして今日の午後には九州・熊本で読者とミーティング、明日は鹿児島で薩摩非凡会開催。これは東奔西走というよりは、「北奔南走」かもしれない。気温差だけでも15度くらいある。


全国の「がんばれ社長!」読者ががんばっているのを実感する。昨日までの札幌非凡会と翌日の観光旅行のなかでも、何人かの方から、ご相談を受けた。

昨夜のAさん(33才男性)の場合。ススキノのバーでグラスを傾けつつ、とつとつと彼が話しだした内容は、ざっとこんな感じだ。

・33才で独身。医学関係の公的資格を取得し、それを活かすために今の会社に入社。
・3年間がんばってきたが、今の会社にいても、資格や志を活かせないと判断。
・そこで昨年末に辞表を提出し、この3月でもって退職が決定。
・3月以降は、自分で会社を興し、自分の技能や資格を売るつもりでいる。
・半分趣味ではじめた株式投資が好調で、必要な収入はそちらで賄うことができている状況にある。
・だが、3月以降のビジネスモデルや行動計画についてはまったく白紙に近い。
・この状況をどう整理すべきか、またこれから何をすべきか、助言がほしい。

というものだった。

そこで、私は冒頭のドラッカーの言葉をご紹介しつつ、Aさんに申し上げた。

「あなたの場合は、間違いなく新しい人生を始めようとしている。ドラッカーが言う第一の方法を選択されたわけです。それは素晴らしいことですし、何をはじめようかという計画がないまま辞表を出したという決断の仕方も僕は好きです」

「そうですか、ありがとうございます。」
「次に、心構えとしての助言ですが、これから何をやるにしても、リスクと不透明感がなくなることはないということです。奥さんや同僚がいるわけでもないので、いっそうのこと不安でしょう。でもそれが起業ということです。これからプランを練り上げていくことによって、今の不安感を、希望やワクワク感に変えていくのです。ですから、今は不安だらけであっても何も問題ではないということ。だが、一ヶ月後には、今と違う心の状況を作りましょう。」

「はい。わかりました。」

「あと二つほどお話しします。良い作戦を作ったとしても、その通りに進まないことだってあります。その時には最悪の状況を想定し、それを心理的に受けいれておきましょう。」

「えっ、最悪を?」

「私が経営コンサルタントとして独立した10年前には顧問先が一社もありませんでした。当然ですよね。独立以前にもコンサルタントの経験がありません。基礎知識が備わっているかどうかもわかりません。ですから、企業経営者が私とコンサルティング契約を交わしてくれるということに全然自信がありませんでした。第一、どんなにポジティブな人でも、全然やったことのない仕事に自信をもつことなんて、無理ですよね。」

「・・・(こっくりとうなずく)」

「そこで最悪の状況を受け入れたのです。仮に半年や一年、全然受注できなくても構わない。蓄えはまったくないけれど、健康な肉体がある。季節労働者やコンビニの求人はあとをたたない。時間給800円でも月間300時間はたらけば24万円になる。月間売上げ24万円の会社の社長だ。自分でやりたいことをやるためだったら、そんな仕事は苦労でもなんでもない、喜びの一部だ、と心のなかで受け入れたのです。実際は、その仕事をやる時は来ませんでした。でも、今でもその気持ちは持ち続けています。」

「なるほど、それが最悪を受け入れるということですね」

「そうです。考えてみれば、最悪なんて知れたことでしょ」

最後に私は彼にこんな助言をした。それは株式投資についてだ。

<誌面が尽きたようです。明日の『ウィークリー雑感』につづく>