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その退職理由・・・

あるデザイン会社のトップデザイナー(女性)から辞表が出た。「毎日が忙しすぎて仕事が雑になってしまう。時間に追われてデザインするのではなく、ひとつひとつの作品に対して丹念に取り組みたい」というのが理由らしい。

「社長、あなたはその辞職理由を聞いてどのように答えてあげたのですか?」私はそう質問した。すると社長は、「じっくり仕事をやらせてやりたいのは山々だが、そうならない時の方が多い。特に彼女は腕が良いので仕事がいつも集中していた。申し訳ない」と力がない。

きっと彼女は、不満とストレスがたまって目標を見失っていたのだろう。話し合いの余地があるのなら、是非とももう一度話し合ってもらいたいと思う。

じっくりやれる状況にあるのなら質を追求する。じっくりやれない状況なら、量を追求する。どちらの場合にも追求するものがあるはずだ、と言ってあげてほしい。

仕事をしているのか、仕事をやらされているのか、の違いである。漆芸家の人間国宝・大場松魚氏は次のように語っている。

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私は時計と競争する。だから夜も昼もあったもんじゃない。例えば、ひとつの品物を作るのに、この一面はさっき一分で塗れた。じゃあ次は五五秒で塗る。それも同じようにきれいにきちんと仕上げる。だからトイレに立てば立った分だけ、時計は先に進んで仕事は何もできない。時計と競争してこいつを負かすことはなかなかできませんけどね。時々は勝つようなことがありますよ。人間は「頭」があるからです。時計のリズムは一定だが、人間は「この仕事をこの時間までに仕上げるんだと腹を決めれば、グッと時間を短縮することができる。だから仕事を速くしようと思えば目標時間を決め、それに対して集中攻撃を掛けることです。そうすれば一分速くなるか五分速くなるか、いくらかでも速くなるんです。そうやって時計に逆ねじを食らわせるような意気込みで仕事に向かうことが大切です。(『致知』2008年1月号より)
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