某日、牛島社長(仮名)がやってきた。
「やりましたよ、武沢さん。ついに目標の数が500個になりました。よろしかったらちょっと見ていただけませんか。」
「へぇ、500個とは凄い。面白そうですね、いいんですか拝見して。」
「ほぉー、すごいなあ」と思うと同時に、「目標がそんなにたくさんあって大丈夫か?」という疑念が頭をよぎる。たしかに私は、かねがね次のように申し上げてきた。
「夢や目標、あるいは経営の課題や問題はひとつの書式にどんどん記入していって下さい。この段階では、分類したり優先順位をつけたりしないで、まずは沢山書き出すことを心がけて下さい。」
牛島さんはそれを覚えたおられた。持参されたものは、案の定、まだ目標ではなく、その候補リストの段階だった。
「この中から本当の目標を見つけましょうよ。」と提案した。
私たちがリストに書いている夢・目標には、ふつう、次の二つのものが混同されているはずだ。
1.達成すべき目標そのものの記述
2.目標達成から得られる様々な有形無形の報酬
一度あなたのリストをご覧いただきたい。
牛島さんは、「目標」と「報酬」を分け、それをひとつの書式に記入したものを後日持参された。
いま最も大切な短期戦略目標、それは来年度の売上高を10億円にする、という野望だ。今年度が8億円弱なので、相当に高い伸びを見込んでいることになる。
“この目標達成から得られる報酬”の欄をみてみると、
1.1億円の経常利益を出すことができる
2.余裕をもって借入金の返済をすることができる
3.資金繰りが安定し、わずらわしい資金調達奔走から解放される
4.悲願の無借金経営に近づく
5.社員の給料をアップさせることができる
6.休日や時間数などの待遇を改善することができる
7.新たに優秀な社員を雇用する資金ができる
8.社長自身の役員報酬を増やすことができる
9.全員一台パソコン体制が実現する
10.長期的な視点で人材育成に取り組むことができる
などとある。
私はこのリストを見ながら申し上げた。
武「なるほど、牛島さん。良いことづくめじゃないですか。ところで、牛島社長ご自身の報酬のことが8番目にありましたが、今の報酬はいくらで、計画達成後には幾らになるのか、決めてありますか。」
牛「いえ、まだそこまで決めてありません。今は月収で70万円ですが、それを幾らにするか、までは未定です。」
武「えっ?決めておられないのですか。」
牛「はい、それは達成してから決めようかと。」
武「・・・」
「役員報酬を増やすことができる」とあるが、幾らにするのかはまだ考えていないという。念のために、他の項目についても尋ねると、借入金が幾らまでに減るのか、いつになると無借金経営になるのか、社員の待遇は具体的にどうなるのか、すべては未定もしくは不透明だという。
「いけませんよ、これでは。欲望貯蔵庫のフタが締まったままじゃないですか。貯蔵庫のフタを全開してやりましょうよ、牛島さん。」
それには、未定・不透明という部分をなくしてゆくのだ。エクセルで簡単に算出されるものもあれば、何らかの意思決定や判断が必要になるものもある。
いずれにしろ、「達成してから考える」というゴボウビは、本当のご褒美の役目を果たさない。ご褒美は、もらう前からその恩恵を活用すべきものだ。
牛島さんは10億が欲しいのではない。10億から得られるご褒美が魅力なのだ。私たちも同様のことをしていないだろうか。今年の第四四半期に突入した今日、目標設定を再点検してみよう。
お知らせ・・中国江蘇省常州市政府主催「中国ビジネス研究会」・・延期
当初、11/6(水)に名古屋商工会議所で開催を予定していました表題のセミナーが延期となりました。理由:常州市長が党大会参加のため、来日できなくなったため。次の開催日が決まり次第、この欄でお知らせします。参加予約を頂戴していた方々には、個別にメールにてお知らせしました。