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遠水近火

『韓非子』のなかに“遠水近火を救わず”という言葉がある。直訳すると、遠くにある水では近くの火を消すことができない、となろう。この真意は、遠くにあってはいざというとき役に立たない、ということだ。
日本では古来、「遠くの親戚より近くの他人」という。中には、「近くの親戚より遠くの親友」という新しいことわざを生み出す人達もいるが、ここでは余談。

さて、近くの友人がどの程度好ましい存在なのか、また、遠くの親戚がどの程度もの足りないものなのか、をデータで把握したいものだ。そこでいろいろ調べてみたら、面白いものにぶつかった。

素敵なメルマガ「心理学ショートショート」だ。そのなかのある号で、
「会えば会うほど好きになる」と題したコラムがある。
http://www.shinrigaku.com/column/text/035.html

このコラムでは、米国でのある心理学実験の様子が紹介されている。それによると、Zaionc(1968)は、人と人との接触回数の頻度が、相手への評価にどんな影響を与えるかを実験したという。

被験者の大学生達は、卒業生名簿からえらばれた12人の顔写真を見せられた。2秒間隔でランダムな順番に86回見せられたという。
その際、見せる回数は均等ではなく、それぞれの写真ごとに回数を変化させた。その回数は、「0回」「1回」「2回」「5回」「10回」「25回」とした。

見終わった後、被験者たちにそれぞれの顔写真を再度提示し、「どのくらい好意を持つか」を7段階評価で測定してもらったところ、次のような結果になったという。

【結果】
「0回」提示・・・+2.8
「1回」提示・・・+2.9
「2回」提示・・・+2.9
「5回」提示・・・+3.2
「10回」提示・・・+3.6
「25回」提示・・・+3.7
(数字が大きいほど好意的:数字は概算)

心理学ショートショート http://www.shinrigaku.com/

なるほど、こんなデータがあるとは知らなかった。たしかに思い当たることが沢山ある。
毎日みているテレビのキャスターやタレントが、何となく好ましく感じるのもその一例だろう。

よって、この実験データをビジネスで応用すると、どうなるか。
一番ベーシックな結論は、「だから営業マンはフットワークが勝負で、見込客に対して接触頻度を上げましょう!」となるはずだ。
それも正解の一部だが、充分ではない。

このZaionc(1968)調査だけでは分からない人間心理もある。

ひとつは、人間は時間とともに忘れていくという問題だ。去年10回会った営業マンよりも、今月3回会った営業マンの方が頼みやすい、というだ。
せっかく勝ち得た好感度も、その後怠ると、忘却曲線に沿って忘れられることを忘れてはならない。(変な日本語だ)

あとひとつの問題は、タイミングだ。

営業の場合、好感度を持ってもらうことが仕事ではない。受注を取ることが仕事である。その“受注”にはタイミングがある。日用品や消耗品の販売ならば、毎日が“受注”のタイミングになりえるだろうが、通常の企業間取引には、買い手側に「購買時期」というタイミングがあるのだ。タイミングの良いときに集中して訪問する作戦が必要であり、タイミングを失したときに何度訪問しても無意味だ。

その他にもある。

接触頻度を凌駕しかねないほどの力あるもの、それは接触濃度だ。別名、戦友感情と呼ぼう。
お互いに厳しい環境をくぐり抜け、地獄を味わったり、同じ釜のメシを喰ったという経験は、極めて高い濃度をもつ接触として記憶に残り続ける。また、「本当に困ったとき、そばにいてくれた」というのも高濃度になる。

最近の個人的体験だが、
今月の中国訪問の際に同行したMさん(音楽事業関係者)。彼とは、初対面であり、3日間同行したとは言え、正味の接触時間はそんなに長くはない。だが、日本語が通用しない場所で、彼と特異な経験を共有したために、彼は私にとってスペシャルな存在だ。もし子供が音楽を習いたいといえば、きっと彼に相談するだろう。少ない接触頻度にも関わらず、彼は私にインパクトを与えた。

さて、『遠水近火』。
これを応用して、あなたの会社独自のマーケティングシステムを考案されれば、百戦危うからず、と思うがいかがだろう。