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タクシーは社会の縮図?

長年私のメルマガを読んでいると、タクシー運転士と床屋の大将
ら私がネタをたくさん拾っていることに気づくらしい。
「今回の床屋さんでは、どんなおもしろいネタがありましたか?」
言われたこともある。たしかにその通りで、今日もタクシーで拾っ
ネタをいくつかお届けしたい。

ひとつめは「それでいいの?」と考えさせられる話。

60歳前後の女性が初めて名古屋に来た、とタクシーに乗り込んだ。観
光目的か、仕事なのかは分からないが、毅然とした態度は学校の校
先生か、大企業の経営者という印象だった。
「どこか美味しい昼ご飯が食べられる店に連れていってください」
いう。好物は麺類だそうだ。味噌煮込みうどんにすべきか、あんか
パスタにすべきか迷ったが運転士は味噌煮込みうどんの人気店へご
内した。すこし行列ができていたが、女性は「並びますから」とタ
シーを降りた。

その行為がアダになった。
翌日、タクシー会社の本社から運転士全員に通達がまわった。

「今後、お客様にレストランを尋ねられても一切答えないように。
日、ある女性客から電話があり、味噌煮込みの店に案内されて行列
待たされてあげく、半生状態の麺をだされたとひどくご立腹されて
た。タクシー会社と飲食店がグルになっているとまで批判された。
味の好みには個人差があるので、今後は特定の店を紹介しないよう
してください」

その店は半生状態の麺が人気で、食べ進めるうちにちょうどよい塩
になるのだが・・・。

私はそれを聞いて、別の機会に運転士に聞いてみたことがある。
「どこかこのあたりで、おいしい名古屋メシのお店はありませんか?」
と。すると、「私は外食をしないので」などとはぐらかされた。
かつては、うまい店は地元のタクシー運転士に聞けといわれたもの
が、今はいったいどれだけの運転士が教えてくれるのだろうか。
やっぱりスマホに聞かなきゃだめなのだろうか。

贔屓(ひいき)の話ができないのはレストランに限ったことでは
い。政治はもちろん、プロ野球の好みも迂闊にはいえない。
東京はジャイアンツ、名古屋はドラゴンズ、大阪はタイガースと思
ていたら大間違いなのだ。

ふたつめは野球選手の話題。
名古屋駅で体格のいい男性をお乗せした。
ナゴヤドームの「関係者入口」まで行ってください、と言う。時計
みたらまだ昼前だ。ナイトゲームが始まる18時までまだたっぷり時間
がある。運転士は野球にまったく興味がないが、それでも野球関係
かメディアの人だと分かった。

「今日はお仕事ですか?」と運転士。「そうです、野球の仕事です」
と客。
「最近、ドラゴンズの調子がいいですね」と言いかけた。6連勝だか、
7連勝だかしていると職場の同僚がいっていたように記憶していたから
だ。だが、ドラゴンズ関係者かどうか分からない。
結局、ずっと黙っていたのが幸いした。
目的地でお客を降ろすと、すぐに別のお客が乗り込んできた。その
いわく、「あの人ってジャイアンツの○○コーチですよね」。
知らぬが仏とはこのことだと運転士は思った。

三つ目も野球。
別の日、名古屋のあるホテルでドラゴンズの選手が4台のタクシーに分
乗して乗り込んできた。目的地はナゴヤドーム。
先頭のタクシーに乗り込んだのは誰もが顔を知っているベテラン選手。
先頭の次の車には30歳前後の中堅選手三人が乗り込んだ。皆、色の浅
黒い精悍な顔をしていた。
二台目の車を運転していたが、車の流れがよかったので、一台目を
い越した。目的地は全員ナゴヤドームなので問題なかろう。

だが、そこは強烈な縦社会だった。
「あ、追い越さないでください。さがってもらえますか。先輩を追
越してはいけないので」助手席の選手がかなりあわてて運転士に訴
た。先輩・後輩の関係はあることは知っていたが、よもやプロ野球の、
しかもタクシーの走る順番にまでそれがあるとは知らなかった。

タクシーに社会の縮図をみるようで興味深い。