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手間賃仕事ですから・・・

社長は「会社」という商品を開発販売する。
社員は「製品・サービス」という商品を開発販売する。
そういう分業なのに、社長も社員と一緒になって製品サービスだけに
注力していると「会社」が時代遅れになり、承継する人がいなくなり、
廃業する羽目になる。そうなる前に会社という商品を磨いていこう。

「うちは手間賃仕事ですから」が口ぐせの富山の社長がいる。
年齢は50歳ぐらいだろうか。これまでセミナーなどに数回お越しにな
り、顔と名前は憶えているが、酒場にご一緒したのは初めてだった。
富山の日本酒で乾杯したあと、近況を伺ってみた。

案の定というべきか、人の問題が真っ先に出た。
部品加工業を営むこの会社は、社長が20年前につくったそうだ。
社長の人柄の良さと技術の確かさで比較的順調にやってきたが、ここ
数年は業績の低迷と人の問題で困っているという。
「今年、若い社員が数人辞めたのですが、欠員補充がなかなかできず、
事業がじり貧傾向になっています」という。

社員が辞めていった理由は慢性的な勤務時間の長さらしい。年間休
日は90日程度、有休取得率は10%前後だという。
「最近は低利益で小ロットの仕事ばかりが国内に残り、薄利多売で生
き残るしかない。社員は皆職人で、若手が採れずに廃業する業者も少
なくない。このままではうちもいずれ・・・」とこの上なく暗い。

私が何を申し上げても「うちは手間賃仕事なので」が口から出る社
長。何度目のときだろうか、「やめませんか、その口ぐせ」と申し上
げた。
「時間のムダなので、今度それを言ったら帰ります」

え?、という表情の社長。言い訳ぐせに気づいていないようだ。
「ふたことめには手間賃仕事ですからと思考停止してしまうでしょ。
それが普段でも出ているんじゃありませんか」

今までは手間賃仕事で経営してこられた。だけど、これからは手間
賃仕事だけでは明るい未来が描けない。なので「ポスト手間賃仕事」
の新事業・新サービスを起ち上げて、ふたたび会社に勢いを取り戻す。
それを牽引するのが社長の仕事だし、そういう話し合いなら私もして
いて楽しい。

「おっしゃる通りですが、現実問題としてそんなことができますか。
うちは零細企業ですし」
「できるかできないかじゃない。やらないといかんのです」
「やったところはあるのですか?」

「当たり前じゃないですか。みんなそれをやってきた。ざっくりいえ
ば上場会社を含むすべての会社の半分は手間賃仕事から始めていると
言ってもいいでしょ。私の会社だって創業時は役務提供という手間賃
仕事でしたし」
「コンサルティングも手間賃仕事なんですか?」
「やり方によってそうなります」

富山の社長は日本酒を片手にもったまま刺身をずっと凝視していた。
私はその間にトイレに立つ。戻ってくるなり社長が質問した。
「どういう手順で手間賃仕事から脱出できますかね?」
「お客さんに加工賃を請求するのでなく付加価値を請求する会社にな
るのです」
「付加価値を請求?」
「そうです。お客さんが、”ありがたい”、”助かる”、”凄い”、
と言ってくれるようなことを考えるのです。そのためにはお客に聞き
にいけばよい。こんなことを考えているのですが、どう思われますか?
こんなサービスを始めたら、利用してみたいと思われますか?などと。
ヒントは同業ではなく異業種にあると思いますよ」

いかがだろう。
すこし話をデフォルメしたものの、これに近い飲み会が最近あった。
今日とは違う明日の会社づくりをするのが社長業であり、それを計画
にしたものが「経営計画書」である。最初は計画書の完成度が低くて
も構わない。アナログでもデジタルでもいいので、「経営計画書」が
存在することが大切だ。そこに最新のアイデアや情報があるようにす
る。毎日欠かさず経営計画書を読み、書き込みをする。そういう仕組
みを作ることが社長業には欠かせないのだ。