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続・洪庵先生のいましめ

春分の日を利用して火・水の二日間、「日間賀島」(ひまかじま)に行ってきた。20年ぶり5度目の日間賀島は、タコとフグで有名な島。
名古屋から名鉄で河和(こうわ)まで行き河和港からフェリーで20分かけて到着する。名古屋駅からは最短90分ほどで行ける手軽な別天地でもある。
「大海原を一望しての秘密会議」とうたっておきながら、二日間とも雨にたたられたせいで「一望」はできず。その分、議論に没頭できたのでよかったのかもしれない。

さて、一昨日のつづき。

江戸時代末期の医師・緒方洪庵はベルリン大学教授のフーフェランドが書いた医学書のオランダ語訳を愛読していた。洪庵は20年近くかけてそれを翻訳し、「扶氏経験遺訓」(全30卷)と題して出版した。
この本の巻末には医者への戒めがある。それを要約し12ヵ条にまとめた洪庵は、自分が主宰する「適塾」の規範ともした。

司馬遼太郎が訳した第一条がこれ。

一.医者がこの世で生活しているのは、人のためであって自分のためではない。決して有名になろうと思うな。また利益を追おうとするな。ただただ自分をすてよ。そして人を救うことだけを考えよ。

今日は残りの11箇条をまとめてお届けする。先日も触れたが、以下は武沢訳なので、原文に忠実であるとは言えないかもしれないが、主旨はそれほどずれていないと思う。

一.純粋に病人だけをみよ。相手が有名であるとか無名であるとか、金持ちか貧乏か、などを気にするようなことがあってはならない

一.患者の身体がすべて正解。医師の術が正解なのではない。自分の術に固執せず、謙虚に患者の身体から学びなさい

一.患者から信頼される人間たれ。いくら優れた医師でも着飾ったり患者が理解できないことを平然と話すなどの奇行は恥である

一.患者のため、あなたのために、夜、鎮まって昼間の診察を再度ふり返り、記録し、それで良かったかを再考しなさい

一.患者の家を訪ねるとき、いたずらに訪問回数でカバーしようとせず、一回の訪問、一回の診察に全神経を集中させた診療をすべしかといって、それが労を惜しむ言い訳になってはならない

一.不治の病者が命の助けを求めるのを聞いてあげるのも医者の仕事である
命を救ってあげることはできなくても、すこしでも命を延ばす方法を考え、同時に、心を安んじてあげることも仁術なり

一.治療費はなるべく安くしなさい。かりに命を与えることができたとしても、命の次に大切なお金を奪ってしまえば貧しい人たちを救うことにはならない

一.医師はたくさんの秘密を知る職業なので人柄が問われる。そのためには、日ごろから身ぎれいにし、ギャンブル、深酒、好色、金銭に欲深いなどの汚名がないようにせねばならない

一.他の医師を愛し、尊びなさい。他の医師の悪口を言うなどはもってのほかである。医師にはそれぞれの考え方や、やり方があるので、あなたの考えと違っていたとしても敬いなさい。前の医師の治療が正しかったかどうかを患者に聞かれたら、その治療法の良い点を語りなさい。批判してはならない

一.治療方針について仲間と相談するときは、多くても三人までにし、しかも相手をよく選びなさい。相談するのは患者の身の安全が目的なので、患者の存在を忘れて議論するようなことがあってはならない

一.患者がほかの医師の治療を疑い、こちらに訪ねてきたとしても、それをやすやすと引き受けてはならない。まず先の医師にそれを伝え、了解を得るべきである。ただし、今までの治療が明らかに間違っていて、急を要することであれば迷わずに患者第一で治療にあたりなさい

150年以上経った今読んでも新しい。しかもこの12箇条は医師に限らず通用しそうでもある。