★テーマ別★

計画を前倒しで引退した大瀧社長

東京商工リサーチの調査によれば、2016年現在の全国社長の平均年齢は、前年より0.3歳上昇し61.19歳に達したという。団塊の世代の社長交代が進まず、高齢化が顕著になっているという。
ちょっと前までは50代後半だった社長年齢が、ジリジリ上昇している。
どこかで歯止めをかけないと65歳を超え、70歳に近づいていく可能性もある。

社長が高齢化していること自体も問題なのだが、その悪影響も顕著になっている。ひとつは社長の年齢上昇=業績の悪化、という構図である。社長の高齢化がビジネスモデルの劣化につながり、若手が会社を見限って辞めていくなどの組織崩壊にもつながる。その結果、休廃業や解散件数の増加にむすびつく。特に東北・四国など人口減少率の高い地域でそれが顕著になっている。

そんな状態をあざ笑うかのように、東北の鶴岡市(山形県)にある株式会社山形ハーネスの大瀧郁夫社長は61歳の若さで取締役会長に退き、幹部社員だった水口啓一氏が代表権のある取締役社長に就任した。
鮮やかな退任劇といえる。

6/13(火)の朝、Facebook でその告知を見た私は大瀧社長にメールした。「こんなに早い予定でしたか?」するとこんな答えが返ってきた。
「もともとは65歳の計画でしたが、退任する方の年齢より就任する方の年齢が重要だと気付き、より早い方が新社長としての行動力が発揮できるだろうとの考えのもとに実行しました」

なぜこんな思いきったことができたのか。実はその理由は簡単である。何年も前から「そうする」と発表してきたからだ。
本人(大瀧さん)と後継者(水口さん)が何度も話し合い、周囲の社員、金融機関、取引先などに対してもその路線を繰り返し説いてきたからである。

もちろん、事業承継は簡単ではない。持ち株の問題、借入金保証の問題、後継者の意思や経営力の問題、周囲の社員、顧客や協力業者の理解と協力など、課題は山積していたはずだ。特に山形ハーネスさんの場合、後継者が血縁者ではないことから、承継の難易度は高かったはず。
だからこそ計画的にひとつひとつ丁寧にクリアしていったのだろう
その結果、予定よりも4年近く前倒しして事業承継を終えることができた。

株式会社山形ハーネスの社長は61歳から49歳へと大幅に若返った。
大瀧会長は何年も前から「経営計画書」をつくり、発表会を開催してこられた。業績が良くても悪くても(最近はずっと良い)経営計画をつくるのをやめようと思ったことは一度もないそうだ。
そして、経営計画書には事業承継計画の要素も含まれる。あと何年社長をやらせてもらうと、毎年カウントダウンしながら経営してこられたはずだ。それぐらいの決心が私たちにも必要だろう。

代表取締役社長から代表権のない取締役会長へ。
玄関脇にあった大きな社長専用の部屋からも早々に引っ越し、オープンスペースで仕事をはじめた大瀧会長。
社長の重責から解放された喜びを爆発させるように、日曜日には趣味の自転車ツーリングで72キロを走破したそうだ。
根っから仕事が好きな大瀧さんゆえ、きっと新たな起業を企んでいるにちがいない。新しい人生の始まり、おめでとうございます。