未分類

その時人生が動いた

上司:「香取さん、勤務ご苦労様でした。この書類に記入すべきことはすべて私が書いておきました。あとはあなたの署名が必      要です。ここにサインして下さい。」
香取:「えっ?ちょ、ちょっと待ってくださいよ。これって退職届けじゃないですか。」
上司:「そうですよ。」
香取:「遅刻したのは申し訳ないと思ってます。でも、僕はやめるつもりなんかないです。ごめんなさい、もう遅刻しませんから    許して下さい。」
上司:「香取さん、今日で何度目ですか?遅刻は立派な契約違反になるということをご存知ですよね。あなたの方から契約を破っ    ておきながら、“やめるつもりはない”なんて言えますか?」
香取:「・・・」

「自分は正社員じゃない、“単なる”バイトなんだ。ある意味、気軽な身分なんだ。」と香取は内心で思っていた。事実、香取はディズニーランド以外に、近所のガソリンスタンドでも働いていた。そちらの方では、「すいません、今日ちょっと体調悪いんで休ませてもらいます。」と電話すれば、あっさり許可をもらえていた。ウソが簡単に通用したのだ。本当に気軽だった。

この日のディズニーの遅刻も、徹夜で遊んだことによる寝過ごしが理由だ。心のどこかに“単なる”という気分があったのを自分ではわかっている。近所のガソリンスタンドなら通用する口実が、ここでは通用しなかった。

上司は普段から、香取をはじめスタッフのしつけにはとりわけ厳しい。「おい香取君、おまえなぁ・・・」という叱られ方は何度でもあった。だが、この日だけは「香取さん」なのだ。その言葉づかいを聞いた瞬間に、内心で、「あっ、敬語になってる。
大好きなこの上司に自分は見放されようとしている。もしそうなれば、この先、僕はどうなってしまうのだろう。」と香取は思った。香取をここまで一人前の社会人として育ててくれたのは、その上司のおかげである。「この人に見放されたくない。」と思うと、香取は涙がこみ上げてきた。そして土下座して謝った。誠心誠意あやまった。二度と同じことをしないと心に誓った。

すると、

「おまえなぁ、香取。いいかげんにしろよ。」と上司の口調が普段にもどった。「やった、助かった。」香取は歓喜した。

そこから香取は社会人として大切なことを学んだ。

そんな香取が、その翌年、ディズニーランドの年間最優秀スタッフに選ばれ、シンデレラ城の前で全スタッフから喝采を浴びた。その光景をみて、上司は何を思っただろう。

そして今、私たちが「社会人として大切なことはみんなディズニーランドから教わった」を読むことができるのは、香取の上司のおかげである。また、上司に食らいついていって辞表にサインしなかった香取の根性のおかげでもある。
その決定的瞬間こそ、テレビ『その時歴史が動いた』ならぬ、『その時人生が動いた』なのだ。

「社会人として大切なことはみんなディズニーランドから教わった」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4769607695/ref%3Dbr%5Fac%5F492046%5Ftop5%5F1%5F3/249-8685557-1803518

株式会社シュウ研究所 http://www.shuu.co.jp/

※あえて文中では敬称を省略させていただきました。
香取貴信さん、ありがとう。