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「もしドラ」の成功と読み誤り

●いくつか是正しなければならない性分が私にはある。「すごく売れている!」と聞くとその本は読みたくなくなるという性分は早く直したいものだ。

「バカの壁」「国家の品格」「女性の品格」「夢をかなえるゾウ」、いずれもスルーしてきた。「もしドラ」こと「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」も当然読んでいない。じゃあ何を読んでるの?と聞かれるが、平積みされていない本を読んでいる。

●それにしても「もしドラ」はついに220万部を突破したそうだ。これ以上は無視できないと思っていたら、「大塚商会実践ソリューションフェア2011in中部」のゲスト講師として著者の岩崎夏海氏が来るという。

●2月10日午後1時、名古屋ヒルトンに向かった。
520名入るホールは満席。すきまなくイスが置かれ、誘導される順に詰めて座る。運悪く両側から大柄な男性に挟まれ、きゅうくつな思いをしながら90分間講演をきいた。劣悪な受講環境だが、タダなのだから我慢するしかない。

●前もって岩崎氏はどんな人かウィキペディアで調べておいた。
それによれば、1968年東京生まれの小説家、放送作家。秋元康に師事し、放送作家として「とんねるずのみなさんのおかげです」「ダウンタウンのごっつええ感じ」など、テレビ番組の制作に参加した後、ゲームやウェブコンテンツの開発会社を経て、作家としての活動を始めた。
2009年12月、作家として初めての作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』を発表し、ミリオンセラーを記録、とある。

●ヒルトンでの演題は「なぜ今ドラッカーが求められるのか」。

「先日、東京で先に講演してきた。ネットで評判を調べてみたら “眠くなった”などとTwitterで酷評されていた。私の講演中にお休みになるのは構わないが、ネットで悪口をいうのはぜひ勘弁していただきたい。中部地区にはそんな方はいないと思うが・・」と笑いを取った。

1時間半の講演で笑いが起きたのはここを含めて合計三箇所。私も人のことはとやかくいえないが、岩崎氏は笑いを取ることに無頓着である。

●内容は興味深かった。

はじめのうちは「ドラッカーがどんなことを言っているのか」「ドラッカーとはどんな人なのか」という一般的な話題が続いた。
そういう話は他でも聞ける。岩崎氏しかできない話を聞きたい。

たとえば「もしドラ」という本が生まれた背景、きっかけ、企画段階の構想やビジョンなど。そう思っていたら30分後ぐらいからそんな話題になっていった。さっそく腕組みを説いてメモを取りはじめる。

以下、その要点。

●毎年12月23日は書店が混む日である。それは誰かへのクリスマスプレゼントとして本を買う人が多いから。「本とは何か」「本は誰が買うのか」をそのとき考えた。ドラッカーがいう「顧客は誰か」という本質的問いかけを本にむかってしてみたのである。
本を買う人は本を読む人だけだろうか。そうではない。現に、ここに本を贈りたい人がたくさん本を買っている。だったら贈ってうれしい、読んでもうれしい本を作ろうとそのとき思った。

●しかし本を贈ることに対して苦い思い出がある。

親戚の女子学生にデールカーネギーの『人を動かす』をプレゼントしたことがあるのだ。彼女の成長の一助になればと選んだベスト本をプレゼントしたつもりだった。しばらく反応を待った。だが何もレスポンスがこない。

●数ヶ月後、親せき一同が勢揃いした。おそるおそる彼女に本の感想を聞いた。
すると、「まだ読んでる途中なの。読み終わったら感想を言うね」と交わされた。本の話題はそれっきりだった。つまり読んでいなかったのだ。いや、読み始めたのだろうが、きっと読めなかったのだ。その時の互いの気まずさは今も忘れられない。

●これからの彼女の人生で『人を動かす』の知恵は絶対必要だと思う。
しかし、肝心の本は本好きでない人にとっては取っつきにくいシロモノだった。本のあり方はこれでいいのか?とそのとき思った。

●2009年のある日、「もしドラ」を書くひきがねになるような事件に遭遇した。それはテレビ番組の中だった。
生徒会長になったある女子高生がテレビの収録中にとつぜんカミングアウトしはじめたのだ。

「本当のことを言います。私は生徒会長になるような器じゃありません。後輩をきちんと指導できないし、みんなの意見をとりまとめることもできません。なのに投票で選ばれてこんな立場になってしまって、正直いって毎日苦痛なんです」

●人生で初めて経験するマネジメントという問題。それに直面して彼女は懊悩していた。
マネジメントが必要なのは会社経営者やマネージャーという立場の人だけではない。
クラスの運営にもマネジメントは必要だし、部活のマネジメント、家庭のマネジメントに仲間のマネジメントなど、あらゆる場面でマネジメントの知恵が必要になる。しかし学生にとって、それはどこでも習うことができないテーマである。幸いマネジメントに長けた先生が身近にいれば相談もできるが、先生自身もそれを学んでいないことが多い。

●そのカミングアウトを聞いて学校の先生はこう助言していた。

「みんないろんな苦労を乗り越えて成長していくんだ。あなたもガンバレよ。きっと何年かしたら、これも良い思い出になるんだから」

それを聞いて岩崎氏はテレビに向かって叫んだ。

「ちが~う!そうじゃないんだ」と。

「今の彼女に必要なのは励ましではなくマネジメントの知恵と技術だ。ドラッカーの『マネジメント』を読みなさいと教えることが今の彼女にもっとも必要な助言なんだ」

●その日の夕方、岩崎の足は渋谷のダイヤモンド社に向かっていた。
ドラッカーの『マネジメント』を出版している会社である。

このときすでに、「もしドラ」の構想が氏のなかで出来ていた。

<明日につづく>

※この内容は岩崎夏海氏の講演をモチーフにしていますが、講演で聞けなかった細部の描写などは、武沢の想像も加えられていることをご了承下さい。