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光秀と疑われた先輩

●『経営者の条件』でドラッカーはこう言った。

「決定においては何が正しいかを考えなければならない。やがては妥協が必要になるからこそ、最初から誰が正しいか、何が受け入れられ易いかという観点からスタートしてはならない」

これが議論の鉄則だろう。誰が正しいかより何が正しいかを考えよう。略して「誰?よりも何?」

●ところがそれは議論の話であって人間関係では「何?よりも誰?」の方がやっぱり大切だと思う。

相手に好かれれば何を言っても許されるし、良い方に解釈してくれる。
相手に嫌われれば何を言っても怒られるし、全て悪い方に解釈される。
だからまず、人に認められる人間になっておこう。

●20代のころ、ある会社で働いていた私は、上司である社長を心から尊敬していた。社長に認められ、ねぎらわれることで全てが酬いられる思いだった。

●そんなある日のこと、半年がかりの大きなプロジェクトが成功裏に終わり、祝勝会が開かれた。
関係者数十名が一同にそろい、立食スタイルで互いに労をねぎらい合う。当然、社長も輪の中心にいた。

●私はビール片手に社長に近づき、「社長、おつかれ様でした。大成功ですね。それにしても我々メンバーとしては、社長が織田信長みたいにリーダーシップを発揮して下さったので大変やりやすかったです」。

●すると社長は上機嫌にビールを一口飲んで、「ありがとう、武沢君。秀吉のような君がいてくれるおかげだよ」とねぎらってくれた。

私はそのひとことで完全に舞い上がり、欣喜雀躍して自席にもどった。そして横にいた先輩のA課長にその話しをした。
すると先輩は、「よし、いいことを聞いた。オレもその手を使わしてもらうわ」と彼も社長にビールを注ぎにいった。

●数分後後、ひどく落ち込んだ様子で彼が戻ってきた。
「あれ先輩、どうされたんですか」と聞くと、社長との会話に失敗したらしい。こんな会話になったという。

「社長、すごいですね。まるで織田信長みたいでした」

すると社長は眉をひそめ、不機嫌そうにこう言った。
「ということは何かいA課長。僕はやがて光秀に討たれるということかい。君がまさかそのつもりじゃあるまいな」
「と、とんでもない。僕は明智光秀じゃありません。し、失礼します」
ほうほうの体で逃げ戻ってきた。

●A課長は仕事では有能だが、後輩の私からみても好かれるキャラクターではなかった。これ、30年前のほぼ実話。

●「誰が正しいかより何が正しいか」は議論の鉄則。
だが信頼関係の鉄則はその逆だ。「何が正しいかより誰が正しいか」である。

上司や先輩、年長者からかわいがられるような愛嬌ある個性をもとう。
社長も同じで、社員から愛されるキャラクターが必要だ。
若い男性ならば「一心太助」のようなイメージが私は好きだ。太助は時代劇によく登場するが、架空の人物らしい。女性ならば、これまた架空の人物で「がんばれゴエモン」に出てくる「おみつ」さん。タレントなら「ベッキー」だろうか。

無理のない範囲でキャラを開発していこう。