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親子会議のすすめ

「うちのせがれはダメだ。あんな不出来な息子を社長にするなんざ、百年早い」という社長。
いっぽう、そう言われた息子は、「親父は古い。あんな石頭でガンコな親父が社長をやっているようでは社員がかわいそうだ」。

社内でも二人でけんかばかり。社員はどちらを立てて良いか分からない。

功績のあった父親を尊敬し、畏敬の念をもって接しながらも今の時代にあった新しい発展プランをもっているのが息子の役目。

しかも息子として親にかわいがられるだけでなく、後継者として認められる存在でもあらねばならぬ。後継する息子の側は結構大変だ。

親子関係にはいろいろあるが、大別すれば、うまく行っている家庭とうまく行っていない家庭とがある。

うまく行っていない家庭においては、親から子への事業継承は考えない方がよいと思う。
健全に会話ができない状態で事業継承すると、『華麗なる一族』のような末路が待っている可能性が高い。

先日、30才代後半とおぼしき経営者から質問を受けた。

「会社の事業計画書を作りたい。息子の自分が作った計画を親に説明する時、どうすればよいだろうか?親子関係が不仲というほどではないが、親子で会社のことを一対一で話し合った経験がない」と彼は言う。

たしかに、親子の会話に司会者がほしいときがある。
他人とは上手にコミュニケーションできる人が、親子や夫婦の会話となると急に下手くそになってしまうことが多いもの。

肉親ゆえに、何らかの特別な感情が入るのだろう。
特に思春期に親に反抗してきた息子の場合、その後何年たっても親子の会話がぎこちなくなることがあるものだ。

そんな時、どのようにコミュニケーションをとれば良いか。しかも息子の側が経営計画書を作るとき、それを父親である社長にどう了解を取り付けるかというのは切実な問題だろう。

私は質問者の彼に申し上げた。

まず場づくりをしてほしい。30才代も後半の年令になれば、主導権は息子が取っていって良い。親子の会話が進むような定例ミーティングを開催するよう働きかけよう。

そして充分に親の立場や経験、それにメンツを配慮したコミュニケー
ションをとっていってほしい。その方が最終的にはうまくいく。

例えばこうなる。

「親父、会社のためにも社員のためにも、会社の将来ビジョンを作りたいと思う。経営計画の作り方は、外部の講習に参加して自分が勉強してくるので、その内容については親父の意見や考えをベースにしたい。もちろん、自分のアイデアも親父に聞いてもらうつもりだが、まずお願いしたいことは、毎月3回程度、自分と親父との経営ミーティングを定期開催したい。時間は一回あたり1時間もあれば充分だと思う。どうだろうか?」

この申し出自体に反発する親はいないはずだ。

「うるせぇ黙ってろ、お前にそんな力はまだない!」なんていう親子関係なのであれば、そのこと自体が事業承継すべきではないという証だから。

むしろ目を細めて息子の申し出をうれしそうに受け入れてくれることだろう。だから、定例ミーティングの場を設け、その議題として息子が作った成果物(経営計画書)の中味について議論していくのだ。

第一回:我社の歩み、沿革について
第二回:我社の強みと経営課題について
第三回:我社の経営理念について
第四回:我社の将来ビジョンについて
第五回:我社の過去三年決算書分析について
第六回:我社の今後五カ年数字計画について
第七回:我社の営業戦略について
第八回:我社の物づくり戦略、新事業戦略について
第九回:我社の人材採用と人材育成について
第十回:その他の経営課題について 1
第十一回:   〃        2
第十二回:   〃        3

以上12回を3~4ヶ月かけてミーティングする。ミーティング時間は60分。内容が盛り上がってくれば時間を延長しても良いが、なるべく議題からそれるような会話はしない。
議題以外の会話がしたくなれば、ミーティング終了後に缶ビールでも飲みながらやればよい。

最初のうちは、必要によって第三者がいても良い。
いきなりサシで話し合うと緊張してしまう場合には、なおさら第三者の存在が必要だろう。
たとえば、上記の議題のうち、第一回では古参社員に入ってもらったり、第五回では税理士さんに入ってもらったりする。
親からみても息子からみても、共通の友人がいればその方でもよい。

こうした親子会議が円滑に進められるようになったころ、会社の事業承継もおのずとうまく動き始めることだろう。