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続・P君解雇問題を問う

アンケート回答者は18名で、解雇すべきかすべきでないかの意見がまったく拮抗した。

・解雇やむなし   6名(33.3%)
・解雇すべきでない 4名(22.2%)
・様子を見るべき 5名(27.8%)
・その他     3名(16.7%)

「がんばれ!社長」の読者には論客が多い。昨日は「解雇すべき」とお考えの方の意見を紹介したので、今日は別の意見を聞いてみたい。いずれも傾聴に値するご意見ばかり。まずは「解雇すべきではない」派の意見である。

・勤務態度など見ていないので難しいのですが、頑張っていて結果が伴っていないのであれば、解雇はしません。しかし、放っておく訳にもいきませので、面談を行います。仕事が出来ない理由を見極めたいからです。まずは、P君の置かれている非常にマズイ状況を説明し、認識してもらいます。そして、もっと会社に貢献してもらいたいことを要求します。出来ない理由が本人の能力以外だと判断したら、P君が奮起する方向にベクトルを持っていきます。具体的には、P君には3つの選択肢があることを伝えます。1.現状のままなら、会社が考えたP君の出来るそれなりの仕事、給与等。2.P君のしたい仕事(部署)・出来る仕事(部署)。3.辞職(解雇)最終的に選択はP君にさせます。出来ない理由が本人の能力によるところで、これ以上の見込がないと判断した場合は、上記「1」を受け入れるように説得します。

・出来ない人間を解雇していれば、「明日はわが身かも」「結果を出せるかだけで判断される」と他の社員から思われ、社員からの会社への信用を失うと思う。仕事の結果はもちろん大事だが、P君の存在意義を見出すのが採用した側の責任だと思う。結果の出来不出来は待遇面で差をつければ良い。どうしてもP君の採用を後悔するのであれば、二人目のP君を採用しないよう原因を追究し採用過程に対策を施せばよい。それだけでもP君の採用意義が見出せると思う。お互いに努力を重ねてもどうしても結果が芳しくない場合は、P君が準備をして自分から違う道に進むのではないだろうか。(初めて意見を投稿しました。当社でも同様のことがあり、他人事とは思えませんでした。拙い文章で大変恐縮です。)

・もしP君を解雇したら、他の社員の帰属意識は無くなり、恐怖と不信感しか会社に持てなくなるんではないでしょうか。そして奥さんの言うように、社員の立場でも、ものごとを考えれるようでなくてはいけないと思います。自分も同じような気持ちで悩んだ事ありますが、解雇しなくて正解だったと思っています。P君が悪いというより、P君をどんなポジションにすればいいのか、どう成長させるかを経営サイドの課題ととらえなくてはいけないかと思います。企業は人なり。人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なりだと思います。

次に「様子を見るべき」というご意見。

・問題の根源は評価制度にあると思う。つまりP君を助ける仕組みが構築出来ていないことと、自分の評価が解雇を検討されるほど著しく低いということを彼自身が自覚出来ないという評価体制の問題だと思う。当社にも数字上のトップ営業マン、平均的営業マン、そして落ちこぼれ営業マンがいる。然し、彼等の評価は必ずしもトップ>平均>落ちこぼれ、ではない。平均的営業マンの評価の方がトップ営業マンよりも高い場合もある。何故なら当社のモットーは『助け合い』であり、評価制度も同様に構築している。受注額と同じくらいの重要度で、他社員のサポートや営業ノウハウの伝達に高い評価点を与えている。そして四半期に一度評価進捗面談を実施する。面談の目的は叱咤激励ではなく、改善案の協議と、更に社員に自分の立ち位置をはっきりと確認してもらうことに在る。人事評価がトップダウンで不透明だと社員のモチベーションも危機感も希薄になり易いと思う。

・1.原則プライベートな事情と仕事は切り離すべき。2.まずは今一度P君に目標設定をコミットメントさせる。(〇〇件成約、〇〇円売上、ミス〇〇%削減等)。出来ない場合は減給なりを約束させる。3.上司V部長にもP君の目標をコミットメントさせる。部下育成も上司の仕事である。その育成計画を立ててもらう(〇〇社同行訪問、ロールプレイ〇〇回、研修に行かせる等)。それらの記録をしっかり取っておく最悪解雇の場合にも会社としてどのようなステップを踏んでいるかエビデンスになる。

・今回社長の犯した失敗はP君の処遇を話し合う席に人事担当の総務部長の頭越しに社内人事を決定しようとしたところにあります。ここでたかだか一社員の処遇の為に、幹部間の感情的なしこりをつくる危険を冒すことはばかばかしいと思われます。そこで下記の追加的手続を提案します。・業績不良の背景として何らかの疾患(身体的・精神的なものを含む)がないかどうかについて本人自身が医療機関を受診し治療のための合理的な努力を行うよう指導する。・休業が必要ならば健保組合の傷病手当金受給を申請させる。「生活給」の心配をする総務部長に免じて傷病手当金と本給との差額は一定期間会社から支給してもよい。・社長は総務部長同席でP君と最終面談を行って期限を切って業績改善の誓約書を取り、本人に退職回避のための猛烈な努力を促す。・その後P君を総務部付とする人事を発令し、その後の一定期間の結果をもってなお業績不良であれば解雇に踏み切るべき。

最後に「その他」の意見。

・労働組合のある中堅規模以上の企業では特別扱いが先例となるので解雇はやむを得ない。当該事例は社長夫人が総務部長であることからも小企業と思はれる。小企業の利点は社長の個人的な人間関係に因るものは問題外として、普遍的な人間愛に基づく決断は幹部の反対を抑えうることである。減給してでも彼の能力、性向にあった仕事を当てがって継続雇用すべきである。極端な減給は問題であるが常識的な範囲の減給を拒否されたら解雇しても不当労働行為には該当しないと思う。

・販売実績ということで営業業務と推察されますが、どのような体制で営業業務に取り組んでいたのかが分かりませんし、やはり問題児と決めつける前に人間としての評価を社長なりに見極めたうえで部長に指導計画書を作成させます。奥さんのおっしゃることに同感です。

・人は能力自体にはそれほど差があるとは思えないが、やはり向き不向きがあり、営業はできないが細かい調査は得意、逆境に立ったときの行動力がすごい、など、能力を生かせる職種が社内にあればよいが、そうでなければ転職もやむなしかと思う。

いかがだろう。
「解雇すべき」「すべきでない」「様子見する」「その他」の四つの意見がこれほどきれいに分かれるケースも珍しい。ことほどさように社員の解雇問題は悩ましい。そうした判断の根底に据えたいものが経営理念から派生する人事理念であるはずだ。問題が起きてから対応を検討するのではなく、問題が起きる前から基本的なスタンスを明確にしておきたい。

「人は失敗の前では凡人である」とプーシキン(露、文豪)が言うが、私はそう思わない。たしかに新しい問題や課題の免疫はできていないだろうが、企業や人間がかかえる問題の大半は事前学習可能であり、何が起きても動じない軸を「経営計画書」などで明文化しておきたい。このケースの最大の問題は、社長が迷走したことである。ブレまくったことが問題なのである。

人の意見を聞くたびに自分の考えがブレていてはいけない。すべての意見を考慮に入れた上で、それでも私はこちらの意見を採用する。今回だけでなく今後も私が経営を預かるかぎりこちらの意見を採用しつづける。なぜなら、その根底にこういう考えがあるからだ。という軸をもとう。今回はブレまくってしまった社長も、そこを補強すれば、関連事項についてブレなくなる。やがて、別の問題に遭遇したときにも右往左往することはなくなっていくはずである。

よってこの稿の私の結論:

1.P君を解雇するもしないもその会社の理念から決めるべきもの。
2.今回のP君問題の本質は社長の迷いが招いてしまった内部混乱である。
3.次回から迷わないように経営理念、人事理念を経営計画書などで明文化しよう。