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福引きを科学する

「2,980円になります。あ、お客様、あと 20円だけお買い物されたら、福引きができるのですが、もうひと品いかがですか?」

「え、20円分買うの?」

スーパーのレジでそう言われた私は一瞬迷った。20円ぐらいなら何か買おうじゃないかと思った。しかし、私のあとには 5人ほどのお客が並んでいる。今さら売場に戻って 20円ほどの商品を見つけてくるわけにはいかない。さ、どうしよう。

そのときだった。ガラガラという回転音のあと、「カラーン、カラーン」と鐘の音が聞こえた。誰かが何かを当てたようだ。

そもそも、福引きで何が当たるか聞いていない。もし興味のないものだったら挑戦する意味がない。でも食品スーパーである以上、何が当たっても実用的なものに違いない。だったら 20円ぐらい協力してあげようじゃないか。3秒ほどの間でそんなことを考え、私は決断した。

「ちょっと待ってて」

レジにそう言い残し、20円分買い物をすることにした。

「早くしてよ」という顔で私をにらみつけている行列のお客に謝りながら、レジ回りの棚に向かった。乾電池やライター、歯磨きガムなどが所せましと並んでいる。なんだよ、20円のものなんてひとつもないじゃないか。どれも 100円以上だ。私は 20円の商品を探すのをやめ、欲しくもない 1本のマジックペンを手にレジに戻った。120円だった。

勇躍、福引き会場に向かうとかなり空いていた。私の前に二人の客がいるだけだった。そして前の二人はいずれも白い玉を出し、外れのティッシュをもらっていた。順番が来ると、私は念を入れて引いた。すると赤い玉が出た。男性スタッフが「カラーン、カラーン」の鐘に手を伸ばすかと思ったが、「こちらのクーポン券お使いください」と紙切れを手渡しただけだった。

今年中なら 50円引きになるという商品券だった。ティッシュに比べれば得した気分だったが、自転車での帰り道、私は50円を手に入れるのに 120円使ったことに気づいた。

「バカだな、俺は 70円も損したよ」と苦笑したが、120円のマジックペンを手に入れている。ということはやっぱり 50円得したのだ。いや、マジックペンなんて今の私には必要ないからやっぱり損なのか?

人生とはこういうことである。ビジネスもそうだろう。

いろんな出来事が身の回りに連続しておきる。瞬間瞬間で判断してその結果を私たちは自ら甘受している。ときには立ち止まって自分の判断や決断の良否を評価せねばならない。そして次に同様なことがあれば、より正しい決断ができるように備えておかねばならない。

次回、福引きに 20円足りないという状況がいつあるか分からないが、私はやっぱりやるだろう。小銭で一瞬たりとも夢が買えるのならやる。小銭ではなく大銭ならどうするか。その場合は支払うものと得られる物とのバランスで決めることになる。

数式で表すとこうだ。

「当選の価値×当選する確率=妥当価格」

仮に 1億円宝くじがあるとしよう。その場合の当選価値は 1億円。当選確率は 40万分の 1だとする。すると妥当価格は 250円になる。それが一枚 200円で売られていたら「買い」だし、300円なら「見送り」となる。あとはどの程度「夢」の部分を評価するかだが、本人の懐事情による。人によっては 300円でも 400円でも買うという人がいても不思議ではない。

考え方は以上の通りだが、私の場合はスーパーの福引きで何が当たるかいまだに知らないままだし、当選確率にいたっては不明だ。

福引き一等の品にどんな価値があり、期間中に何回福引きが回されるかを試算すれば、幾らまで(余分に)買い物してよいかも判断できるはずだ。

今度やってみようかな。