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三畏(さんい)

小学生が、「織田く~ん、おださ~ん、オダちゃ~ん」とさけんでいる。人気俳優・織田裕二への歓声ではなく、なんと織田信長への歓声なのだ。

毎年10月22日は京都三大祭のひとつ、「時代祭」の日である。友人にお願いして入手した指定席に着座した。ちょうど行列ごしの反対側に小学生たちが座っていた。
有名な英雄が通るたびに、「西郷(隆盛)さ~ん」とか「しんさく~ぅ(高杉)、こっち見て」などのかけ声が飛ぶ。まるで歌舞伎役者のようだ。

明治維新から始まって江戸時代、安土桃山時代という順に歴史をさかのぼっていく。専門家が時代考証・衣装考証しているという本格的な時代ファッションショー的な色合いもあり、とにかく美しい。当然、外国人観光客も多く、興奮している。

日本史に登場する有名人の多くが登場するのだが、意外な大物がこの行列に登場しない。
たとえば、信長・秀吉が出るのに徳川家康が出ない。西郷や坂本、桂、高杉が出るのに、大久保利通が出ない、など不思議な点もあるがそこまで詮索するのはよそう。

そんな中、一番人気はやっぱり信長。

冒頭にご紹介した小学生のかけ声がひときわ大きくて熱い。ヒーロー、ヒロインは子ども達のあこがれであり、心のなかでメンターであり続けるのだろう。

そうした意味で、私はダウンタウンというお笑いコンビが嫌いだ。
というより、彼らが司会する番組の多くに問題があると思っている。

「HEY!HEY!HEY!」や「ジャンクスポーツ」などでは、歌謡やスポーツのヒーロー・ヒロインを登場させ、それをこき下ろして遊んでいる。
あれでは青少年の情操教育にすこぶる悪い影響を与えると思うのだ。

「スターを身近に感じてもらう」という彼らなりの言い分もあるのだろうが、孔子がこんな言葉を語っているのを番組制作者たちは思い出してほしいものだ。

「君子に三畏(さんい)あり。天命を畏(おそ)れ、大人を畏れ、聖人の言を畏る。小人は天命を知らずして畏れざるなり。大人に狎(な)れ、聖人の言を侮(あなど)る」

その意味はこうだ。

「リーダーは、三つのものを畏れる(尊重す)べきだ。一つは天命を畏れ、大人(優れた徳のそなわった人)を畏れ、聖人の言葉を畏れる。
その逆に、つまらない人物は、その三つのものを大切にしない。つまり、天命(天から与えられた使命)を知ろうともせず、わがままに振る舞い、尊敬すべき人になれなれしく接し、聖人の言葉を馬鹿にする」

「HEY!HEY!HEY!」や「ジャンクスポーツ」から受ける嫌悪感は、大人に狎れる(なれなれしい)子供を育成しかねない危機感からくるものだ。

私はお笑い番組を否定するものではない。むしろお笑い番組が大好きである。いつでも明るく振る舞うタレントをある面では尊敬もしている。
だが、笑いの質と影響を考えねばならない。お笑いタレントとして天命をもち、勉強してほしいと願う。

子供たちの先輩のなかに、ヒーロー・ヒロインを持たせることは、教育上とても大切なことなのである。