昔、相手から携帯電話の番号を聞き出すことは友人の仲間入りを許されたことを意味した。
だが、今では携帯電話は名刺や履歴書にだって書く時代。これは、他の個人情報と違って、すぐに変更できる便利さゆえのことか。
一方、「不便になったなぁ」と思うことがある。
履歴書から「国籍」記入欄や「家族構成」欄、親の職業記載欄がなくなった。面接している相手が長男(女)なのか、次男(女)なのかも聞かないかぎりは分からない。
そんな不自由な履歴書は、被雇用者保護の精神で作られたものらしいが、雇用側だって真剣に相手を選ぶ義務と権利があるのだ。
「米国の警備保障会社『ガーズマーク社』のガードマンになることは、どこでも見かけるような警察官になるよりもむずかしい」(トム・ピーターズ「自由奔放のマネジメント」より)と言われている。
ガーズマーク社は、”セキュリティ(警備保障)事業のティファニー”をめざし、警備員の質が最大の決め手になると考えてきた。
だが、ちょっと前までの米国における警備員は、「従業者の一割以上が刑法犯罪の前歴があり、ドラッグを常用する者の比率も極めて高い」という状況。
そうした業界の暗部を一掃すべく、ガーズマーク社では次のような厳しい選考過程を経てガードマンが人選されているのだ。
・入社申込書は24ページにおよび、過去10年間の職歴、居住歴、医療面での生涯記録の記載が要求される
・職歴で30日以上の空白がある場合は、しっかりした説明が要求される
・過去10年までさかのぼって、応募者の前雇用主すべてと接触し、職歴や仕事の適格性を照会する
・応募者の現居住地か過去の居住地の隣人とも連絡をとり、人物照会する
・すべての応募者に対して法律の範囲内で犯罪歴をチェックし、指紋も採る。
・法律の許すかぎり、全従業員に対して嘘発見器にかけて質問回答することを義務づけている
こうした選考過程を経ると、応募者のうち通過できる者は2パーセントほどになってしまうという。だからこそ、「どこでも見かけるような警察官になるよりもガーズマーク社の警備員になるほうがむずかしい」と言われるのだ。
理念のためには妥協しない。
そして、これで話が終わりなのではない。入社してからも手綱は緩まることがない。
・入社時に配られる113ページからなる研修マニュアルを完璧にマスターすることを要求される
・全ガードマンは毎月、最低でも4回は定期講習会に出席しなければならない
などなど、警備のプロフェッショナルとして質の高い仕事が期待される。しかし、それに見合った給与水準のせいか、転職率は業界平均の4分の1に押さえられているという。
このように、誰もが知っている大企業に就職するより、無名に近い地方の有力企業に就職する方が難しいことがある。人材選考の段階ですでにあなたの会社の理念の本気さが問われているのだ。