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チケットを売れ

プロ野球、読売ジャイアンツの人気離散はかなり深刻な様子だ。

4月某日、ナゴヤドームの中日-巨人戦のチケットを確保した私が家族の前で得意な気分で入られたのは球場に来るまでだった。公式入場者数は3.6万人とあったが、感覚的にはナゴヤドームの半分が空席という感じ。なぜ一気にこんなにまで凋落してしまったのだろう。

今、巨人の人気低下ぶりを示す“事件”があちこちでおきている。

都内の金券ショップでは、東京ドームの巨人戦が定価割れを起こしているそうだ。昨年までも、試合当日に限っては定価割れで販売される日もあったというが、前売り段階でこんなことになるのはかつてない。内野A指定(定価5,200円)が二枚で8,000円だというのだ。以前は、定価の5倍以上で取引されたプラチナチケットが・・・。

また、こんな“事件”もあった。

名古屋のあるサラリーマンが昨年勝負に出た。ナゴヤドームのネット裏シーズンチケットを大枚はたいて購入。自分が見たい試合は年間で数試合程度。残りは金券ショップで販売すれば、かなりの儲けになると見込んで投資したという。

だが、この目論見はあえなく外れ、自らがナゴヤドーム周辺に夕方から出勤。ダフ屋として券を売る羽目になった。「こんなはずはない」と思いつつ、真剣に売りこみをはかるうち、やがて警察に見つかり逮捕された。笑うに笑えない話だ。

原因は巨人の成績不振だと言われているが、私はそう思わない。勝敗の行方に関係なく、今の巨人の試合は、見ていて楽しくない。他のスポーツで感じるハラハラドキドキ感がまったくないのだ。

だが、選手や監督が悪いと言っても、B級かC級の戦犯にすぎないだろう。観客動員や視聴率にコミットメントすべき最終責任者は球団社長である。

勝敗と人気は必ずしも関係ないのだ。

それは、『エスキモーに氷を売る』(きこ書房刊)を書いたジョン・スポールストラ社長が証明してみせた。この本は、かつてご紹介した通り、観客動員数最下位の全米プロバスケットボールチーム「ネッツ」を、最弱のままでチケット完売の人気チームへと変貌させた実話物語だ。未読の方にはぜひおすすめしたい一冊である。

ジョンが就任したとき、弱いのは「ネッツ」だけではなかった。チケットを売るための営業部隊も、チームに負けず劣らず弱かった。会議ででる意見は、チームを強くするアイデアばかり。チームさえ強くなってくれれば、必ずチケットは売れるのに・・・。そんな意見が会議を占めた。そこでジョンは宣言する。「君たちの仕事は、ネッツを強くするアイデアを出すことではない。チケットを完売することだ!」と。

私たちは幻想を抱きがちだ。それは、「完璧な商品を作れば自動的に売れる、売れないのは商品の魅力がまだ足りないからだ」と。
その結果、商品を良くすることだけに時間を割いて、売るために創意工夫する努力を軽視する。
だが、「商品が自分たちを救ってくれることはない」というのがジョン特有の割り切りなのだ。

巨人軍が、いやプロ野球界そのものが必要としている人材は、ジョンのようなマーケターだ。決して元プロ野球選手だけが球界の人材ではないはず。
今後、どのような秘策で人気奪回を計るのか、巨人ファンならずとも注目したいものだ。