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顧客に方針を示せ

●「思わずハッとした」と木田精密(仮名)の木田社長は語る。

長年にわたり太い信頼関係を築いてきたはずの主力取引先・黒木電装から「おたくの今後の企業方針を聞きたい」と言われたからだ。そのニュアンスは、「方針の内容いかんでは取引関係を白紙に戻す」と言っているように聞こえた。

●何よりも木田を慌てさせたのは、方針を聞かせろという要求そのものではない。なぜなら、木田精密ではすでに10年以上も前から毎年毎年、経営方針を社内発表してきているからだ。金融機関や協力企業をも集めて年度方針発表会を定例開催してきたという実績がある。従って方針をお聞かせすることぐらいは朝飯前なのだ。

●木田を慌てさせたのは別の理由だ。主力取引先、つまり商品を発注してくれる側、買ってくれる側に向かって方針を伝える、という意識がまったく欠落していたのだ。そのことに唖然とした、と木田は言う。


●たしかにそうかも知れない。名古屋のある建設会社では、次のような方法で方針書の内容を顧客と“すり合わせ”している。

この会社では単年度事業計画の中に取引先別売上高目標が決まっている。次のような感じだ。

★取引先別売上高目標 上位10社
 
 1.山田レストランチェーン 1億5千万円
 2.鈴木工務店       1億1千万円
 3.佐藤焼肉王国        9千万円
 4.田中ホーム         7千万円
 5.加藤創建          6千万円
 6.・・・以下10位まで

●そしてこの数字は、正式に確定する前に顧客と調整する。営業社員を同行して社長自らが顧客を訪問し、次のように話し合うというのだ。

「山田社長、おかげ様でまた9月から新しい気分で新年度を迎えることが出来そうで、ひとえに山田社長のお引き立てのたまものです。つきましては、来年度の企業目標としまして、引き続きこの10社様を上得意先とし、こんな数字でお取引願おうと社内で盛り上がっておる次第です。身勝手かとは思いますが、何かご忠告・助言など頂ければ大変ありがたいと思い、参上した次第です。ちなみに、この二枚目以降の紙は、今、当社が抱えております問題や課題を列挙し、それをどうやって解決していこうかと、皆で、ない知恵を集めて作り上げたものです。あわせてご参照願えれば大変ありがたいです。」

●山田レストランのように、毎年こうした訪問を受けている企業では、事前に山田側での発注予測額を計算してくれて待っているという。また、初めてこうした訪問を受ける企業の多くは、ビックリするという。しかも渡された約15ページほどの方針書の内容や企業の姿勢に感心し、逆に感謝されることも多いそうだ。

●目標や方針は誰のためにあるか。それは顧客に決意や姿勢を表す意味でも作っているのだ、ということを忘れてはならない。