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水と油と・・・

むかしむかし、ジャンケンで勝負するときにはグーとチョキのどちらかしかなかった。グーとチョキは頻繁に勝負したが、いつも勝つのはグーだった。だからチョキは「ぼくが勝つ日は来るのだろうか?」と悩んでいた。時々グーが気をつかって「おい、チョキ君、いっしょに飲みに行かないか」と誘ってくれる。だけど酒が入ればどうせグーの自慢話ばかり聞かされそうで行く気になれない。

ある意味でグーとチョキの関係は水と油のようなもので、上下関係が逆になることはない。ましてや、交わって引き分けになることなど絶対にない。このままじゃ意味がない。チョキはいっそのこと、ジャンケン業界からきれいさっぱり足を洗って田舎へ帰ろうと思っていた。田舎の高校に帰れば、若い生徒たちがチョキを縦向きにかえて「はい、ピース!いえーい」と幸せそうにしてくれる。そこなら自分の活きる道がありそうだ。そんな考えをお母さんにメールしたところ、すぐに返事が届いた。

「そのうちいいこともあるよ。じっくり力をつけなさい」

ある日、びっくりする知らせが入った。このジャンケン業界に新人が入ってくることになったというのだ。その新人は「パー」という変な名前だという。彼は今日、グーに会いに行ったらしく、グーからさっきこんなメールが届いた。

「さっきあいつに会った。あいつすげえぞ。試しに何回か勝負してみたら、このぼくが全敗したんだよ。世の中にこんな強いヤツがいるなんてありえないと思った。悔しくて今夜は眠れそうもないよ」

そのメールをみて、チョキはますます凹んだ。グーよりもっと強いヤツがいるなんて・・・。できれば顔も見たくなかった。次の日は三人がはじめて顔をあわせて勝負をすることなっていたが、チョキは欠席するつもりだった。どうせ結果は分かっている。
1位 パー
2位 グー
3位 チョキ
この順番でランキングが決まるのは分かりきっている。負けてみんなに笑われるくらいなら欠席して不戦敗になったほうがましだ。

その夜、お母さんにメールした。

「そういうことだから、明日は欠席するつもりだよ。どうせ勝負したって今まで以上にひどい負け方をしそうだしね。あ、そうそう、できればこれを機会にお母さんのいる実家にもどって一緒に暮らそうと思うんだ。そして地元の高校生たちを相手に仕事をしようと思ってる」

めずらしくお母さんから返事が来なかった。まだ 8時なのに、もう眠ったのだろうか。

翌朝、気になったのでお母さんに電話を入れてみた。すると、お母さんは泣いていた。「あなたをそんな弱虫に育ててしまって、わたしは天国にいるお父さんに顔合わせできないよ。自分の力を試すことすらしないで親元にもどるなんて・・・。ゆうべはお父さんの仏壇の前でお詫びしながら朝をむかえたのよ」と声をふるわせている。

チョキは詫びた。

「お母さん悲しませてゴメンね、結果は分かってるけど今日はやっぱり行くことにする。三人のジャンケンなんて初めてだけど、とにかく思いっきりやってみる。今日のところは潔く負けて、これからのことは今晩よく考えてまた電話する。とにかく今日は行ってくるから。元気を出してね」

チョキは試合場にむかった。

<明日につづく>