「スマイルカーブ」というものがある。これは、台湾のパソコン製造大手、エイサー社のCEOであるスタン・シン氏が名づけたものだ。産業が高度化するにともない、産業と収益の構造が大きくカーブする。それを図にしたものがこの「スマイルカーブ」だ。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2002/013/fig1.gif
国全体の経済発展に伴い、このカーブの両側の産業が発展する。それに反比例するかのように加工・組立といった比較的単純な産業は空洞化し、低収益・低生産性の道をたどり始めるのだ。
そんなある日のこと、
「なにしろ武沢さん、ダウンサイジングの時代ですからね。」と語るは山ノ内合金製作所(仮名)の山ノ内社長、49才。大手農機メーカーの下請けとしてピストンやシリンダーを制作する鋳造会社である。ご多分に漏れず鋳造部品も空洞化の対象となり、年々仕事が減少。おまけにコストと精度と納期の要求は厳しくなる一方だという。
山ノ内では、ピーク時に30名ほどの従業員がいた。しかしスマイルカーブの餌食となり、今では家族3名を含めて5名の会社になった。それを自嘲して「究極のダウンサイジング」と言う。だが、本来ダウンサイジングとは積極的に小規模になることによって、以前より筋肉質で俊敏な高収益企業に変身することをいう。
さて、このような産業構造の大きなうねりと変化のなかで山ノ内はどのようにそれに適応してくるべきだったのか。先代社長が意気軒昂だった昭和40年代において鋳造会社はどこもよく儲かったという。時代を30年ほど巻き戻すことができればその段階で手を打つことができただろう。だが、業績が絶好調のときに会社の方向を転換するようなリーダーは数少ない。ドラッカーは、次のように助言する。
組織は創造的破壊のためにある、として次のように続く。
・・・組織は、製品、サービス、プロセス、技能、人間関係、社会関係、さらには組織自らについてさえ確立されたもの、習慣化されたもの、馴染みのもの、心地よいものを体系的に破棄する仕組みをもたなければならない。要するに組織は、絶えざる変化を求めて組織されなければならない。新しい組織社会では、知識を有するあらゆる者が、4~5年おきに新しい知識を仕入れなければならない。
(『プロフェッショナルの条件』ドラッカー著 ダイヤモンド社刊)
体系的に破棄する仕組みをどのようにして作るかが次の問題だ。明らかに調子が悪くなったものを破棄することは容易だが、そうなってからでは次の用意ができていない。今の事業がダメになったから新事業に賭けるしかないというのは後手でしかないのだ。
単純に5年以上続いている製品、サービス、プロセス、技能、人間関係、組織、を破棄しよう。それ以上は、どんなに調子が良くても新しいものに変える勇気が必要だ。なぜなら、知識も技術も先端でいられるのは5年までだから。
—————読者覧—————
武沢さんに質問があります。
「がんばれ社長!」を読んでいると、たくさんの企業経営者とお会いしておられるのがわかります。それらはすべて顧問先ですか?もしそうなら何社くらい顧問をされているのですか。あるいは、訪問取材などをされているのですか?架空の話なども混じっているのですか?差し支えない範囲で構わないので教えて下さい。
(栃木県、税理士)
<返答>
「がんばれ社長!」の執筆用にわざわざ取材したことはありませんが、仕事を通して実に多くの経営者にお会いしているのは事実です。顧問先もあれば経営者団体のメンバーさんもあれば、読者の方とお会いすることも少なくありません。話題はいずれも実話です。守秘義務を守りつつ、ご本人の名誉などにも配慮して内容はアレンジしていますが、架空の話はしたことがありません。
滋賀県の玉田和久さんよりお便り
・・・
「志」ということで、最近考えていることです。龍馬は脱藩し、浪人となりました。現代風にいえば、失業者となったわけですね。そして、京、江戸、長崎と日本全国を駆けめぐり、日本の現状を憂い、未来の希望を語りました。で、旅費はどうしたのか?同志との会合にはしばしば、料亭が舞台となり、時には(しばしば?)遊興にもふけったわけですが、そのお金はどうしたのか?駆けめぐったのは、龍馬という人間ではなく、「志」だったのではないでしょうか。その「志」に経済が奉仕したのではないでしょうか。経営者を志す者として、私が大切にすべき原点がそこにあるような気がしています。
・・・
玉田さん、ありがとう。経営用語のなかに「志」というのは出てきませんが理念やビジョンというのはまさしく志です。経営者として大志をもちたいものですね。