『経営の教科書』(武沢信行著、明日香出版)でも述べたが、優秀な人材とは、瞬間風速的なスピードをもった人間ではなく、長期にわたって愚直なまでに前進し続けるタイプの人間である。
馬でいえば駿馬ではなく、駄馬だ。最後に勝つのは、かならず駄馬の方なのだ。
そのためには、二つの条件を満たす必要がある。一つは努力の矛先を間違えてはいけない、ということだ。駄馬に勝機があるのは、みずからが偉大になれるゾーンだけだ。そのゾーンをはみ出て勝負しては勝機がない。そのゾーンとは、
・大好きで情熱がわく分野
・人よりも秀でた分野
・利益が出る分野
という三つの円が重なるところである。この「偉大ゾーン」だけで勝負する。誘惑に勝って、そのゾーン以外のことは一切やらないという潔さが重要なのだ。
あとひとつの条件が、今日の本題だ。それは、いついかなる瞬間も向上しようと努力することである。
『青年の大成』(安岡正篤著 致知出版社)のなかに次のようなくだりがある。
大成しない若者が使う口実は次のようなものであり、それら一つ一つは一見すると、もっとものように見える。
・自分は病弱である
・自分は貧乏である
・自分は頭が悪い
・自分は忙しすぎる(時間がない)
ところがこうした口実は、気概ある人間からみれば、唾棄すべきほどにゆるんだ精神であり、著者はこれぞまさしく怠け者の逃げ口上、薄志弱行にすぎないということを歴史的事実をあげて論破しているのである。
駄馬が勝つにためには、いついかなる瞬間をとらえてでも向上しようとする姿勢が大切だ。経営計画を作るひまがない、パソコンを覚えている時間がない、計数の知識を身につけているひまがない、・・・
それらは、すべて逃避と自己弁護である。
『青年の大成』のなかで紹介されている向上心の固まりのような人物をピックアップしてみた。寸陰を惜しむ心がけだけで、どれほど偉大な功績が残せるかの事例集のようだ。
1.飯田忠彦
水戸光圀卿がつくった『大日本史』は南北朝で終わっているが、それを引き継ぐかたちで『日本野史』を完成させたのが飯田忠彦という幕末の貧乏サラリーマンだ。彼は昼間は宮家につかえ、夜は父の晩酌の相手をしつつ291巻にものぼる日本の近代史を著したのだ。
2.エドワードリットン
19世紀、大英帝国全盛の頃の植民大臣。当時、世界でもっとも忙しい男だったに違いない。もう一面として大旅行家でもありながら、その生涯において数十巻の大著述がある。
3.直江山城守
彼の自著、『古文真宝』上下二巻はいつ書いたか?末尾には、・・・対陣三越月にして成る、とある。そう、まさしく敵前陣中において三ヶ月をかけて書いたというのだ。敵前という命がけの状況下でも、寸陰を惜しむ気持ちがあればやれないことは何もないのだ。
いかがだろう。寸陰を惜しんででもやりたい何かを見つけることが、あなたを真に偉大なカリスマにし向けていく