ある女性幹部が、ビールグラス片手に私の方にやってきた。某社のあるプロジェクトがひと段落したあとの、ご苦労さんパーティでのことだ。
「武沢さん、ちょっと聞いてほしいのですが。」
とんがった口元をみる限り、どうやら何か不満をお持ちの様子だ。
「うちの部長は気まぐれなんだから・・。」
「何かあったのですか?」
「『アイデアを自由に出せ』って部長が言うので、いろいろと突飛なことや奇想天外なアイデアを言ったりしますよね、すると、その場ですぐに否定されてしまうの。ときには、怒りだしちゃったりもする。」
「ほ~、そうなんですか。」
「そう。たとえば私が何かのアイデアを出すとするでしょ、そうすると、『どうやってそれを実現するんだ!』とか、『我々に与えられた予算や時間という制約条件を無視するな』とか言って、ホワイトボードに私のアイデアすら書いてくれない。」
「それはちょっとつらいね。」
「でしょ、それでもって自分のアイデアはどんなにつまらないものでもホワイトボードの目立つ位置にデカデカと書くわけ。これは、メンバー同士の陰口なんですけど、『コミュニケーション・ハラスメント』じゃないかと。」
また新しい“ハラスメント”が出来るのはうれしくないが、たしかにこの女性幹部、かわいそうだと思う。会議やミーティングにはいろいろな目的や手法がある。アイデアを幅広く求めるときには、アイデアを出すことそのものを目的にすべきだ。アイデアの実現可能性や、達成への方法論を問いかけてはならない。
また、長期ビジョンについて検討している会議では、目先の現実的な話題を持ち出して会議のトーンを落としてはならない。
最終的には「未来と今」「夢と現実」とは、かけ橋を架ける必要があるが、それは最終的な話だ。
アイデアの発案段階で現実論を求めていては、発案そのものがストップされるのだ。
全員の感情参加が必要なこうした会議。じつは進行者の何気ない発言や態度によって、参加メンバーの気持ちが左右されていることを忘れてはならない。
逆に、的確なミーティング運営ができる人は、コミュニケーションの達人として高く評価すべきだ。
ミーティングや会議の運営を「ファシリテーション(促進)」と言い、米国では、この専門家「ファシリテーター(促進者)」のプロには高い値がつくという。それはなぜか。
事業内容や企業規模を問わず、組織を運営する基幹システムはコミュニケーションなのだから、そのことだけを専門にするプロがいても不思議ではない。
コミュニケーションという基幹システムの上に乗っかるのが、それぞれの業種業態である。魚屋さんも新聞配達店も建設会社も証券会社もその運営の基礎にあるものは、人と人とのコミュニケーションなのである。その人が、部下であったり上司であったり、同僚、顧客、取引先など様々な相手があるものの、ベーシック機能は、「人とのコミュニケーション」なのだ。
日本でも各分野で「ファシリテーター」の育成に余念がない。私が知る限りにおいて、極めて高度なファシリテーションを提供している会社として、マネジメントコーチネットワーク社がある。
http://www.managementcoach.net/
実際にどんなことが行われるのか、同サービスの開発者、ハワード・ゴールドマン氏(米国)が来日し、9/17、9/18の両日、セッションが行われた。私は18日のほうに参加した。「なるほど、そいつはスゴイ」と、思わず膝を打つ場面が何度かあったが、同社の許可を得たので、その幾つかを来週のマガジンでご紹介してみたい。