私は物心がつくとすでに巨人ファンで、亡くなられた川上哲治さんの現役最後の年も覚えている。「俺のバットの前ですべてのボールを止めてみせる」という意味で赤信号をもじって赤バットを使用していた。
そういう意味では V9時代の前から巨人ファンだったわけだが、原監督になってからは一段と応援に熱が入るようになった。それは、選手を金でかき集めるのではなく、きちんと育てながら強くなってきたからだ。今夜の日本シリーズ第五戦は、東京ドームの一塁側でオレンジのタオルを目一杯振り回そうと思っている。
今回の巨人-楽天の日本シリーズをみていて、勢いの楽天、選手層の巨人の好勝負になっている。両軍ともにリーグ優勝チームにふさわしい強さがある。こうした強いチームには、当然ながら強いリーダー(監督やフロント)がいて、強い選手がいる。その強い選手をいかに他球団に先がけて見抜くかがスカウトマンたちの腕のみせどころなのだが、これがなかなか大変だ。
ドラフト会議の名司会者だったパンチョ伊東氏が 1991年 11月 22日の会議でこう読み上げた。
「第 4回選択希望選手、オリックス、鈴木一朗。投手、18歳。愛工大名電高校」
この日、41番目に名前を呼ばれたイチロー。ミート力はあるがセンが細いというのが大方の評価だった。そんな彼の才能が一気に開花したのは入団三年目。それ以後は、誰もが認める稀代の天才バッターぶりを示していった。
プロのスカウトマンたちが、イチローをその年の 41番目の選手と評価したわけで、選手を見抜く仕事のむずかしさを物語る。反対に、億単位の契約金と年俸をもらいながらも、結局一度も一軍の試合に出ないまま解雇されていくドラフト上位選手も山ほどいる。
怪我やアクシデントに見舞われる選手もいれば、チーム事情によって出番のチャンスが多い・少ないという運もある。だから伸びる選手と伸びない選手の差がどこにあるのかは一概にいえないものの、大きな要因になっているのは、練習態度だと思う。
つまり、練習を手段だと思っている選手はやがて練習がおろそかになり、成長が止まる。たとえば、こんな考え方をしている選手。
・練習で監督にアピールして一軍で使ってもらうためにがんばる
・一軍に上がってレギュラー選手になるために試合でがんばる
・レギュラー選手になって高い年俸をもらって豪邸を建てる
・一軍で活躍すれば将来、指導者や解説者への道がひらける
こうした目標をもって野球に取り組んでいる選手は練習が手段と化し、途中で伸びなくなるだろう。
ぐんぐん伸びる選手は、練習も重要な目的になっている。選手として野球の技を磨き、進歩成長することを目的にしているはずだ。たとえば、
・4割バッターになりたい
・三冠王をとりたい
・完全無失策プレイヤーになりたい
・全試合フルイニング出場する体力と気力を養いたい
・27球で相手チームを完封するピッチャーになりたい
・50歳になっても現役プレイヤーとして活躍したい
そうした目標や課題があれば、試合に出るための練習ではなく、練習そのものが重要なアクションになるわけだ。努力を継続できるか否かは、その選手が何を目標や目的にしているかによって決まると考えてよい。
したがって指導者は選手に、野球がもっとうまくなることを目標に掲げるよう指導すべきだろ。もちろん、チームも勝つことだけが目標ではなく、必然性ある勝利、高い次元で勝ち続けられるような崇高なベースボールをチーム目標に掲げるべきであろう。
「V9なんて奇跡は今のドラフトシステムのもとでは二度とできない」
という声が大半だが、私はどこかのすごいチームが V9の記録を塗りかえる時がくると考えている。