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ある仕出し企業のイノベーション

Rewrite:2014年4月2日(水)

「営業を立て直したいので相談に乗ってほしい」
仕出し弁当を製造販売する会社から電話が入った。さっそく会社を訪問し、関係スタッフ全員にお会いした。その結果分かったことは、営業部隊の販売力が弱いことが問題なのではない、ということだ。そして次のような事実が判明した。

1.弁当の味で自信があるのは、チャーハンとみそ汁、それに肉団子。あとは美味しいという評判もまずいという評判も聞かない。試食会のときには、この得意メニューで勝負している。
2.クレームが多く、営業社員が自社製品に不安をもっていた。味付けのクレームや配達時間の遅れなどがあると、他社に乗り換えられてしまう。仮に100食の新規受注をしても、120食を失うような月が少なからずあった。そうした尻ぬぐいをするのは営業の仕事だった。ある一週間、営業社員がクレーム対策のために使う時間は、全活動時間の3割も占めていた。
3.営業社員は、11ある配達ルートの中だけで新規開拓を義務づけられていた。つまり営業社員は、クレームが多い上に、ルートが決められた中での新規開拓というかなり過酷な働きを求められているのだった。
4.最近1年間ほどは、競合他社の弁当メニューや味を調べたことがない。それとなくウワサは耳に入るが、積極的に競合調査をしていない。
5.創業以来20年間、顧客に対する満足度調査を実施したことがない。当然、お客の評価はわからない。
6.全員が、何かの新しいアイデアで固定客化をはかる必要を感じていた。同時に、我社独自の訴求ポイントがないと“お願い営業”のようになってしまうことにも気づいていた。

こうした事実が判明し、私は社長に進言した。
「社長、これは営業部隊だけの問題ではありません。会社全体のマーケティング力の問題ですね」
「会社全体のマーケティング?」
「その通りです」
といってご説明したのが次の内容だ。

まず我社ならではのウリモノをはっきりさせること。
・これだけは決して他社には負けない
・このノウハウだけはアウトソーシングすることは出来ない
・この顧客だけは、決して他社へ浮気することがない
そうした独自の技術・製品・サービスをもつ会社になることが、中小企業生き残りの鍵となる。マーケティング方針を決める際には、会社全体のマーケティング力を高めることを考えよう。「営業部門」だけを強化すれば充分だ、というのは偏ったものの考え方で、誤りを犯しやすい。

この会社では、6つのことを検討し、価格訴求を除く5つのことを実行に移すことを決めた。詳しく見てみよう。

1.商品力
・何を売っているのか(本質を理解する)・・この会社の事業は、弁当を売ることではない。それは何かの手段だ。話し合いの結果、「高品質お値打ち価格のランチ提供サービス業である」という答えが見つかった。こうした事業の定義づけがその後の活動の基礎となる。

・味での差別化や価格での差別化は検討課題に棚上げした。それにかわってクレームをなくすことで品質向上を図ることにした。そのために、製造工場のトップに品質管理経験者を採用することにした。

・料金表やメニュー表も、永年同じものを使い続けていた。それは印刷会社に作らせた写真と価格だけが載った味気ないものだった。それを営業社員とデザインセンスがある事務スタッフが手作りで、イラスト入りのメッセージ性の高いものに作り変えることにした。持ち歩いて配る喜びが持てるようにした。

2.顧客は誰か
・主力顧客を明確にしようと話し合った。建築現場が良いとか、幼稚園が良いとかの議論が出たが、業種で絞り込むことはできないと結論づけた。それに替わって、配達ルートを現在の11から、半年以内に15ルートまで増やす目標を立てた。それはどのルートでも構わない。営業社員が自由に開拓して良いと決めた。ただし、ルートを一つ新設するためには、コスト面で50食の受注が必要だということも分かった。逆に言えば、50食さえ確保できればどこから受注しても構わないという自由さは大きい。

<明日につづく>