一度もアメリカへ行ったしたことがないA社長が、仕事の都合で一週間後にロスへ出張することになった。
一人で外国へ行くことは初体験。しかも初のアメリカ訪問とあって、不安だらけの様子。
私は、以前にそうした体験をしているので、格好の相談相手だったらしい。A社長の不安は相当なもので、体験済みの私が、まるで雲の上の存在のようにみえたらしい。
すでに体験したことに対して自信をもつことなら誰でもできる。ところがこのA社長のように、普段の仕事には自信をもっていても、未知の経験に対してまで自信を持つことは難しいようだ。
自信をもつための根拠がなにもないからだ。すこしでも不安を取り除く作業をするしかない。
成功体験をすでにもっている事に自信を持てるのは当然として、体験していないことに対して自信をもつことは出来ないのだろうか?
さて、マガジン8/17号の続き。
フルコミッションという仕事に挑戦しようと考えていた私は、友人やお世話になっているコンサルタントの先生に相談した。
正しく言えば、「相談」ではなく「確認」だったのかも知れない。なぜなら、挑戦する(つまり転職する)ことを内心で決めていたからだ。
あとは、確信が欲しかった。
・・・君ならやれる、絶対成功する!いや、君にしか出来ない仕事だと言ってもよい。私が成功を保証してあげてもよい。是非やりなさい!
・・・
と、誰かに言って欲しかったのかもしれない。だが周囲でそれを言ってくれる人がいない。むしろ逆の反応だった。
「武沢君にはセールスの世界は向いてないと思うよ」という反応がほとんどだ。相談した相手が悪かったのか。
そこである日、東京にあるその教材販売会社の本社を訪問することにした。思い切って電話したのだ。
セールスディレクターという役職のSさんにアポイントをとり、幾つかの質問をして確信をもらおうとしたのだ。事前に質問の要点をメモしておいた。
・御社の目標や哲学
・過去数年の売上高の推移
・販売方針
・セールスマンの人数の推移
・一人あたりの販売金額と収入額
・この仕事をしている人たちの前職
・・・etc
質問項目は10項目以上にのぼった。
緊張しつつ応接室で待っていると、やがてSディレクターが表れた。自己紹介をすませて、メモをみながら質問を開始した。
最初の1~2問には誠実に答えていただいたが、まだ質問が続きそうだと判ると、Sさんは私のメモ用紙に目をやり、表情を変えた。
そしてこう言った。
「武沢さん、今日の面会の目的は何ですか?このビジネスで成功するためのご相談ではないのですか?
あなたが、この仕事をすべきかどうかは私には分かりません。それはあなたの価値観と目標でお決めになるべきことです。」
「それは分かっているつもりです。」
「あなたは、その質問用紙から何を得ようとされているのですか?他人が売れているからやる、売れていないからやらない、そんなおつもりですか?
過去の実績を作ってきたのは、あなた同様に挑戦してきた人々の活動の結果です。これからもそうです。」
Sさんの表情・姿勢・語り口のすべてから発せされるメッセージは『自分に自信をもちなさい』というものだった。
私は自分の実績には自信をもっていた。しかし未知の仕事については臆病すぎるところがあるようだった。
知識や情報をいくら集めても自信が深まるわけではないことを思い知ったのだ。
追い打ちをかけるようにSさんは言った。
「武沢さん、あなたはまだご自分の潜在能力の豊かさに気づいておられないのですか?あなたには無尽蔵の力がある。私にもそれがある。
そうしたことを証明するために挑戦がある。
過去の成功体験の延長線上に未来をおいてはいけないのです。あなたの人生のスケールを決めているのはあなた自身です。そうした哲学を実証するためにこの教材があるのです。私たちはその実践者たらんとすべきでしょう。」
「Sさん、私はやります!」と即答した。
それから8年、私のコミッションビジネスが続く。その8年間の体験はまさしくSさんの言う通りだった。
機会をみつけてその8年を語ってみたい。