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あるジジイごろしの人事コンサルタント

先日、知人から30代女性の人事コンサルタントを紹介された。
三人で会うことになったが、知人だけは1時間ほど遅れるという。先におでん屋で二人で乾杯した。
知人いわく、”ジジイごろし”で有名な女性らしい。年配者を手玉にとる嫌なタイプの女性かと身構えていたが、第一印象は意外にも奥ゆかしく、言葉数もすくない。いったいどこが”ジジイごろし”なんだろうと内心で思いつつ、油断しないようにしていた。

名物おでんをいただきながらビールのお替わりが何杯目にさしかかったとき、心浮かれてふだん以上に饒舌になっている自分に気づいた。
お会いしてまだ30分、生ビールがまだ2杯目なのにどうしてこんなに心地よいのか。彼女が美人のせいもあるが、それだけではない何かがある。

しばらくして気づいた。話題である。彼女は人を乗せて話をさせるのが実にうまいのだ。とくに、「自慢話(武勇伝、苦労話)」「説教」「昔話」をさせるのがうまい。この三つは人間だれしも聞いてほしいものである。
「そのときどう思われたのですか?」「私だったら絶対腹が立ちますけどね。よく我慢されましたね」などと話の先をうながすのだ。

人は年をとると「自慢話(武勇伝、苦労話)」「説教」「昔話」の三つ以外に、「愚痴」と「悪口」も加わった「五悪話」(武沢造語)をしたくなる傾向にある。あまりそれが多いとみっともないから、そうしないように年配者は自分の話すことに注意をする。賢明な人ほどそうだ。

だが彼女の前でそんな努力は不要だ。思い切り「五悪話」をさせてくれる。
それが彼女の必殺技とわかり、私は自分の話を途中でやめて彼女を褒め始めた。
「あなたの聞き上手ぶりは天性のものだと思うけど、実にすばらしい特技ですよ。これからもそれを継続されたらいい」

したり顔でそう申し上げた私だが、彼女は意外なことを言った。
要約するとこうだ。

普段のわたくしはこうではありません。特に気が置けない仲間といるときは、誰よりもおしゃべりで自分のことばかり話しています。目立ちたがり屋でもあるので、私のホームページには10点以上自分の画像を使っているくらいです。
しかしコンサルタントを開業してしばらくのあいだ、まったく売上が伸びず苦労していました。どうしたら経営者の心をつかめるかと悩みました。あるとき銀座のママが書いた本に相手の話を聞くことの大切さが書かれていて開眼。以来、仕事では自分のキャラとは別のキャラを演じるようにしました。すると次から次に仕事が広がっていき、今では無理しなくてもこのキャラで一日中過ごせるくらいになりました。

感心した。
聞き上手は天性のものではなく、努力して身につけたものだという
テクニックとしての質問上手はすぐ見やぶることができる。質問がテンプレートだから。しかし相手のことを心から知りたいと願っている彼女の姿勢がこちらを饒舌にさせる。それはテンプレートではない

おしゃべり好きと質問上手は両立できるんだと教えてくれた彼女
結局その日は紹介者の知人がついぞ表れず、約2時間のおでん屋ミーティングの大半を一人しゃべりしてしまった。