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現代の経営、コンサルタント、セールスマン

「経営者教育はいつから始めればよいですか?」と尋ねられることがある。
新入社員教育や管理職教育を行うタイミングは分かりやすいが、経営者教育を始めるタイミングがつかみにくいのは事実である。
だが、私はいつも「新入社員のうちから始めて下さい」と申し上げることにしている。

損益計算書、貸借対照表の読み方、キャッシュフローなどを新人のうちから教えるべきである。マーケティングもイノベーションも教えよう。経営理念の大切さや人材育成についても教えるべきである。
それがどれだけ理解できるか分からない。それらが新人の業務にすぐ役立つとも思わない。だが会社経営を支配している原理原則を入社時から知っておくことは、直接・間接にかならず役に立つ。

私事ながら、27~28歳のときドラッカーの『現代の経営』を読んだ。
それは、勤務先でお世話になっていたコンサルタントS先生の推薦だった。
「武沢さんはコンサルタントとして世間で通用する人材です」と言っていただいた。私は嬉しさ半分と、もう半分はピンとこない気分だった。
コンサルタントになることは一度も考えたことがなかったが、S先生のひと言でそれを考えるようになった。

今思えば、私は試されていたのかもしれない。
『現代の経営』(上下巻)を読んで私に感想を聞かせてくれませんか、とS先生。私がどういう感想をもつかに先生の関心があったのだろう。
「わかりました。読みます」とお伝えし、ひと月ほどかけて読んだ

本は蛍光ペンだらけになった。
「組織っておもしろい。組織のリーダーたる経営者って実におもしろい仕事だ。できれば将来、経営者になるか、経営者に経営を教えるコンサルタントになりたい」と思った。
「そうなのか、勤務先の社長や経営陣はこんな考え方のもとで会社を経営していたのか」と、従来とはまったく別の視点を与えられた気がした。

ひと月後、S先生にそれをお伝えした。
すると先生は、「僕と一緒にコンサルタントをやりませんか」と言われた。
「えっ!」と驚いていると、「クライアント企業から社員を引き抜くことはできません。武沢さん、いったん学生になってください」
「学生?」
「そうです。夜学でも通信でもいいので大卒の学歴をとってください。
うちは大卒しか採用していないので。そのあとうちの入社試験を受けてください。私も役員ですからかならず便宜をはかります」

私は慶応大学の通信教育の資料を取り寄せた。
だが人生が動くときにはたくさんのことが一気に動く。三ヶ月後、私はS先生にひとつのパンフレットを手渡し、お詫びしていた。

「先生、私はコンサルタントになるのを遅らせます。大学に行くのもやめます」
「どういうことですか?」S先生が怪訝な顔で私を見つめた。

「セールスマンになります」

私はそう申し上げた。

<つづく>