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「情けのうて涙が出ます」と漁師

「ありがとう」とか「おかげで助かっている」などと言ってくれ
人がいるからがんばれる。もしそういう手応えがまったくなくて、
純な作業だけをくり返し、毎月決まった金額(たとえば50万円)だけ
が規則正しく口座に振り込まれるとしたら人間はどうなるか?

はからずもそれに近いことが起きた。昭和48年ごろ、日本は高度経
済成長のひずみで、空気や海や川は汚れ、自然破壊が進んでいた。
山口県岩国市の漁師は怒った。汚染された瀬戸内海でとれた魚は臭
て食べられない。とても売りものにならず、生活できないと訴えた
汚染源の東洋紡は責任をとって近海でとれた魚をすべて買い上げる
発表した。

「やった。生活できる。助かった」と漁師たちは喜んだ。
彼らは毎朝早くから漁にでた。漁をおえて港にもどるとトラックが
っている。トラックのタンクに取れたての臭い魚を入れる。魚種に
って買い上げ単価が異なるため、魚種ごとにまず重さを計った。
そのあと、トラックの魚は工場に運びこまれ、タンクに捨てられる
悪臭を放つ魚に対しても市場値の金が払われるので、漁師の生活は
定した。

むしろ、以前よりも儲かると精を出して出漁する人もいた。だが
やがて漁師たちのあいだに疑いや迷いがでてきた。
自分たちは捨てられると分かっている魚を獲りたくて漁師になった
ではない。金になるのはありがたいが、いつまでも金で割り切れる
のではない。自分たちの仕事に何らかの意味がほしい。
漁師は口々に訴えた。
・・・
「何のための人生か。漁民だっておいしい魚を食べてほしい」
「情けのうて涙が出ます」
口々に訴える声は胸をえぐる。
(昭和48年6月16日。朝日文庫より)
・・・

自分たちの仕事が誰の役に立っているのか、どのように役に立っ
いるのか、それを社員に分からせてあげよう。
一度いえばよいという問題ではない。事あるごとにそれを伝えよう
特に現場をみない内勤者ほどそれが大切だ。

さらにいえば、「あなたの仕事は誰の役にたっているか」「どの
うに役立っているのか」も教えてあげよう。
当人はそんな自覚もないまま、同じことをくり返しているだけでは
かろうか。
そうなると待遇がよくても「情けのうて涙が出ます」となりかねない。