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「運用」に関するM社長の教訓

コンサルタントの仕事を始めて間もないころ、文房具製造のM社長の
会社を訪ねたことがある。「新・人事制度お披露目発表会」と題し
人事制度の説明のあと、立食パーティが行われた。
役員数人、社員を代表して数人の課長クラス、それに銀行や来賓が
人、合計20人程度のパーティだった。

社長あいさつのあと、賃金専門コンサルタント・C氏が30分かけて今
回の制度を説明した。いかに合理的で社員からみても納得度の高い
度になったかを自画自賛しておられた。今後の中小企業にはすべて
うした人事制度が必要なのであります、と吠えたC氏。

当時、私は年に何度か海釣りにいくのが好きで、釣りサークルで
り合ったM社長は私より10歳ほど年上だった。
「武沢さん、なかなか良くできた制度でしょ」とM社長はご満悦。
黒鯛釣りに出かけたときも、キス釣りに行ったときもこの人事制度
話題が出たのをみると、相当力を入れてこられたようだ。
「600万円ほど使ったよ」と耳打ちされて驚いた。コンサルタントのC
氏に支払った1年間の費用だそうだ。

その後、私はメルマガを始めたので釣りもゴルフもやめた。
M社長とサークルでお会いすることはなくなった。2~3年経ったころだ
ろうか、別件でM社長を訪ねたことがある。
社長室のキャビネットに評価賃金制度のマニュアルが入った大型バ
ンダーを見つけた。

「社長、新しい人事制度はうまくいってますか?」と訪ねると、M社
長が苦笑している。
「2~3回は管理職に部下評価させたのですが、僕が忙しくて二次評価
や最終調整している時間がとれず、この2年ぐらいはまったく使えてい
ないのが現状だよ。制度は完璧なんだけど、僕に問題がある」

使えないのはひとえに制度に問題がある。
『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。 ~コンサルタントはこう
して組織をぐちゃぐちゃにする』という本がある。その本が巷で話
になったとき、私はまっさきにC氏のことを思い出したほどだ。
マッキンゼー、デロイトなど、超一流といわれるコンサルティング
業の経営理論もなにもかも、じつは何の意味もなかったという衝撃
事実を暴露し、全米が騒然となった。日本でも一部でかなり話題に
った。

企業が組織を動かすためにつくる様々な制度や規定、マニュアル
どの類いは、運用を前提に考えていないと使いものにならないのだ
M社長が肝いりでつくった評価賃金制度もM社長がもっとも多忙な決算
期前後に社長の作業が必要な仕組みになっていた。
人事部がないM社にとっては、社長が人事部長を兼務している。なのに
プロでも難解な複雑な制度設計にしてしまったようで、あれから20年
近く経ったいまでも使われていない。

要するに使えないものを600万円かけてつくってしまったわけだ。
関係者の労力もコストに入れると、おそらく1,000万円以上のお金が消
えてなくなったことになる。

私は経営計画書も同じ立場にあると思っている。
苦労してつくったことに満足し、発表会を終えたことで達成の喜び
味わってしまう社長がいる。だが、それはM社長にとっての「新・人事
制度お披露目発表会」と同じである。大切なことは運用することを
提に、運用しやすい経営計画書になっていることが大切である。

そこで提案。
社長も幹部も社員もみな、一冊のノートで目標や業務を管理しては
うだろう。日々のタスク管理やスケジュール管理は毎日仕事でつか
ている。デジタルでそれらを管理している人もいるだろうが、併用
てもよいので、あえて一冊のノートですべて管理する。
ノートは一年で3冊~6冊程度使うことになるだろう。ノートの後半に
経営計画や個人目標を貼り、実績を記入していく。
未来・現在・過去が一冊のノートに記録されていく。
そんな「バレットジャーナル」ノート術がそれに適していると思う

「運用する」とはなにか。
それが必要なときにだれもが迷わず使えている状態のことを「運用
という。
あらゆるものは「運用」できるようになっていなければならない。