30分でいいのでコーヒーにつきあって欲しい、と旧知のT社長
てきた。氏の横にはスーツ姿の若者が。
「うちのひとり息子なんですわ」と紹介された青年はK君(大学生
いうらしい。名古屋の大学に通っているが、近々東京の大学に編入
る予定だという。卒業後は講談社に入って編集者になるのが夢だそ
だ。
カフェで話し合ったT社長の用件は数分で済んだ。コーヒーはま
っぷり残っている。
話題は自然にK君のことになった。ひょっとして今日の本題は彼の
についてではないだろうかと察した私は、K君の方に向きなおって
り葉ほり聞いてみた。
「講談社で何をしたいの?」「どうして講談社なの?」
K君がそれらに答えていくと、T社長が横から言った。
「武沢さん、せがれの講談社受検についてどう思われますか?縁故
どもないので、真正面からぶつかっていくしかないのですが・・・
「講談社は日本でもっとも狭き門のひとつでしょうね。縁故もない
なれば容易でないのは間違いないね」
業種別でみた狭き門のランキングがこちら。
1位:広告
2位:放送
3位:石油・鉱業
4位:商社
5位:新聞
6位:出版
7位:化学
8位:通信
9位:ゴム・ガラス
10位:医薬品
※東洋経済オンライン「入社が難しい有名企業トップ200ランキ
→ https://toyokeizai.net/article
K君が狙っている出版業界は堂々第4位の人気ぶり。
かつて人気職種だった銀行、生保、損保、自動車、デパートなどは
敬遠されているのがわかる。
こちら↓の「企業別ランキング」をみると『講談社』は13位(前
3位)と、超がつくほどの狭き門であることも分かる。
★入社が難しい会社
→ https://toyokeizai.net/article
「こうした事情は知ってるよね?」
私がそう確認するとK君は、
「ランキングのことは知りませんでしたが、狭き門であることは先
から聞いています。でも可能性がゼロではない以上は、しっかり準
をして臨みたいと思います」と言った。
「そうだね。あ、そうだ。いいことを思い出した。講談社の入社
験問題がネットに上がっているのを知ってる?」と私。
知らないというので、スマホで「講談社 入社試験」で検索してもら
った。こちらが↓そのサイトになる。
https://kodansha.saiyo.jp/202
「せっかくなので今やってみてよ」と言い、私はT社長としばら
談した。
10分ほど経っただろうか、K君がスマホから顔をあげて「だいた
夫でした」という。
漢字問題、読み仮名問題、一般常識問題の三種類あるが、三つと
やり終えたようだ。
私も以前にこの問題に取り組んだことがあるが、結構むずかしく、
おむね70~80点だったと記憶している。
「で、正解率はどれくらい?」と尋ねると「だいたい大丈夫です
と同じことを言う。
「大丈夫ってどういう意味なの、まさか全問正解?」
「はい、全部できました」
「え、本当かい、君。すごいよ。お父さん、彼は大丈夫だ。たの
しい」と申し上げた。
本命の講談社に合格するかどうかは分からない。時の運が作用する
らだ。だが、これだけの学力があれば狙った企業に入れるのは間違
なかろう。
T社長はうれしそうにしていた。ご同慶のいたりである。
だが、小さな町工場を営むT社長の後継候補者がひとり、遠くへ行
しまうことになる。
T社長の本心は、私に何を言わせたかったのだろう?
今、それが気になる。