その他

インテグリティーの欠如

電気工事店を経営する Y 社長とは出会って20年ほどになる。
今から10年ほど前のある日、Y 社長が 長男の U 君を連れてオフィスにやってきた。
「武沢さん、息子を鍛えてやってほしい。一ヶ月くらいカバン持ちでも便所掃除でも言いつけてほしい。
長男はこの年になるまで遊びほうけて暮らしてきたので」と Y 社長。

U 君はそのとき25歳。高校を卒業すると同時にプロをめざしてロックバンドの活動を続けてきたが、夢破れ、東京から実家の四日市(三重県)まで戻ってきた。
Y 社長に口説かれ、電気工事店を継ぐ決心をしたのだという。

そのころ私の事務所でも人を複数採用した直後だったせいもあり、U 君を預かる余裕がなかった。
そこで、通信教育の形で指導を引き受けることにした。
Y 社長には以前に世話になったことでもあり、無償でやらせていただくことにした。

その「無償」がいけなかったのか?
そのときの ”通信指導” は三ヶ月ほどでこちらから辞退する羽目になってしまったのだ。
U 君の人当たりはよい。
私の話も素直に聞いてくれる。
Skype でのミーティングでもハキハキしている。

だが、U 君は不誠実だったのだ。
宿題をやってこない。
課題図書も読まない(買ってすらいない本もあった)。
「次月までにこれをやってご報告します」と言いながらやらない。
表面的に誠実そうでありながら、内実では誠実ではない何かをもっていた。
人柄は良さそうなので、おそらく彼の学習習慣か時間習慣の問題なのだと思う。

Y 社長に会ってそのことをお伝えしたら、「そうした未熟な部分も含めて指導してほしい」と言われた。
「私の守備範囲は経営教育、経営者教育です。
人間教育は門外漢ですから」と私がいうと、「教育は教育だから同じだろう」と言われた

1.寝ている人を起こす
2.起きている人を歩かせる
3.歩いている人を走らせる
4.走っている人を飛ばせる

私の仕事は「3」「4」である、「1」「2」についてはやらない、と申し上げた。
「失敬な。うちの子は寝てなんかいない」と立腹された Y 社長とは、それ以来、年賀状だけを交換するご縁になってしまった。

気まずい思い出である。
ドラッカーは、経営者に求められる究極の要素として【integrity】をあげている。
インテグリティーとは、誠実さ、正直さ、一貫性という意味がある。
ウソをいうつもりはなくても結果的にウソになったり不誠実な結果になるということは、それはインテグリティーの欠如である。

経営者が何かを学ぼうというとき、インテグリティーの欠如があるようでは話にならない。
まずそこから是正して出直して欲しいというのがこちらの気持ちである。