その他

辞めた社員がお客と社員を奪っていく

「退職した社員がお客を奪っていく」「社員を引っこ抜いている」といった相談を受けることがある。
参入障壁が低い業種では退職社員が即ライバルになるケースがある。
就業規則にそれらが禁止されており、社員が誓約書に署名していれば歯止めがかけられるが、そうでない場合、どこまで法的にそれらを阻止できるかが問題だ。

なかには、退職社員と事業者が真っ向から衝突する場合がある。
従来のお客を回って営業行為をくり返す元社員。逆上した元雇用主は「あの者は弊社とは一切関わりがございません。どうか接触にはご配慮いただき、貴社と弊社との取り引きが今後とも円滑に行われることを切望いたします」などと警告を発する。
要するに「あの者」とつき合ったら、うちは仕事を断りますよ、という脅しである。

私が30歳になるころコミッションセールスの仕事をしたことがある。
仕事を始めるにあたっては代理店に誓約書を差し入れた。
その誓約書には「退職時には向こう3年間、同業種への転職を禁じる」という項目があったのを憶えている。
そのころは気にしなかったが、今は逆の立場(経営者の立場)としてその条項にとても興味がある。

要するに「競業避止義務」なのだが、事業者が退職社員に顧客を奪われたり、社員を引っこ抜かれたりすれば、存続が危うくなる。
だから「競業避止」は就業規則に明記し、社員に誓約書を書かせることは有効だ。
その一方、それは個人の職業選択の自由を奪うものではないかという議論もある。
従って、法廷争いになった場合、ケースバイケースで事業者が勝つケースと、社員が勝つケース、まちまちなのだ。

「同業種への転職を禁じる」と就業規則に入れるのは自由だが、その法的拘束力には疑問がある。
むしろ法的に意味をもつのは、「顧客との取引禁止」と「顧客リストの持ち出し禁止」であるというのはこちらの法律事務所。
なるほどな、と思う。
→ https://kigyobengo.com/media/useful/140.html

同業他社に転職するのは自由だが、うちのお客さんと取引してはなりませんよ、と警告することができるというのだ。
また、「顧客リストの持ち出し禁止」も有効で、仮に個人所有の携帯電話を業務に利用してきた場合でも、顧客情報の削除を要求することができるようになるのだ。

いずれにしろ、あまりに露骨な行為をくり返す退職社員とは毅然とした態度で接する必要がある。
それには、毅然となれる理由を前もって作っておくことがとても大切なのだ。