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三国志の意外な結末

社会人になって最初の4年間は製造業の会社で寮生活をしていた。
今ほど趣味や関心が多くなかった私はぶ厚い小説を買ってきては寮の部屋で読んだ。
酒も飲まない、映画や車のお金はない。ネットやスマホはおろか、ビデオもゲームも CD すらも存在しない昭和50年当時、読書しか楽しいことが思いつかなかった。先輩は娯楽室に集まってビールを飲みながらマージャンに興じ、馬券の予想や車の掃除などをしていたが、当時、私はそれらのすべてに興味がなかった。

『新・平家物語』『徳川家康』『三国志』『新・水滸伝』『南総里見八犬伝』など、手当たり次第に長編歴史小説を読んだ。
一番影響を受けた本といえば高校生のときに読んだ『竜馬がゆく』、『国盗り物語』、『宮本武蔵』だが、社会人になって寮で読んだ『三国志』にも夢中になった。

つい最近も居酒屋で三国志の話題がでた。
「誰が一番好きか」という話だった。これは居酒屋の鉄板ネタのようなもので、ふつう、曹操・劉備・孔明に三分される。
時々風変わりな人が趙雲(ちょううん)、関羽(かんう)、呂布(りょふ)と言ったりする。(私も趙雲好きだが)

そんな話題が出たときにはいたずらでこんなクイズを出す。これが結構、正解率が低くて驚く。

<三国志クイズ>
「魏」の曹操、「呉」の孫権、「蜀」の劉備。結局勝ったのは誰?

以下ネタバレありとなる。

最終結論を知らずに三国志を読みたいとお思いの方は、以下の原稿を読まれないほうが良いかもしれない。かといって、面白いネタもあるので、そこは読んでいただきたいが。

日本人の『三国志』知識は吉川英治の小説に負うところが多い。吉川の作品は中国の「三国志演義」をモチーフにしていることから「蜀」の劉備が主人公扱いされている。
従って、三国志を(最後まで)読んでない方は、三国志の勝者も「蜀」の劉備だと早合点されるが、そうではない。
劉備の「蜀」は三国のなかで真っ先に滅んでしまうのだ。滅ぼしたのは曹操率いる「魏」である。

「じゃあ、魏の曹操が勝ったの?」と考えるのも早合点。「ということは呉の孫権が勝者?」と考えるのはもっと早合点。

結論をいうと「晋の司馬炎」なのである。
司馬炎(しばえん)が魏の国を乗っ取り(クーデターに成功し)「晋」(しん)の国を樹立する。その後、「呉」の国を滅ぼし、中国統一に成功しているのだ。「魏」「呉」「蜀」の三国志なのに、「晋」が勝つという妙な結論がいかにも魑魅魍魎(ちみもうりょう)の中国らしい。

さて、王様となった司馬炎という男には笑えない後日談がある。
晋王朝統一後は、政治への興味を一気になくしてしまったのだ。その情熱をすべて女性への色欲に注いだ。まず、総勢一万人の美女が暮らせる巨大な宮殿を建設し、美女を集めまくった。
なんということ。劉備や孔明や曹操や孫権が天国でそれを知り、きっと大いに嘆いたことだろう。

<あすにつづく>