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続・ A さん、B さんの「大払い」

広告代理店からコンサルタントに転身した A さん(40)は挨拶回りした相手の経営者二人に食事とバーの2軒で90万円を超える接待をした。食事代の覚悟はしていたが、よもや100万円近い出費をしてしまうとは・・・。
そんな大金があれば自社の広告宣伝ができたし、オフィス機器への投資もできた。飲み食いに使ってはまったく意味がない、とAさんは激しく後悔し、自分が情けなくてその夜は寝付けなかった。

翌朝、事実を妻に告げると、動ずる様子もなく彼女は言った。
「家計費に影響が出ないように会社の経費でやってくださいね」A さんは「接待交際費」で落とすことにしたが、税務署に否認されることを心配した。

数日後、接待した経営者から一本の電話が届いた。実に愉快そうにあの夜のことを話したのち、
「そうそう、うちの子会社がホームページを作りたいと言っている。
あなたの会社で面倒を見てやってもらえないか」と言われた。
200万円ほどの仕事だった。

その翌週、もうひとりの経営者から販促コンサルティングをやってもらえないかと依頼が入った。それも年間240万円になる仕事だった。

二人の経営者からみて A さんは年下で収入も少ないはず。いままでは飲食するたびにご馳走になってきた A さん。
両者は、おごり・おごられの関係にあった。いつも自動的にそういう関係になった。親子でもないかぎり、ある意味、実に不自然な関係でもある。

赤坂の夜、その関係が断ち切られた。
最初から二人の経営者が A さんに仕事を出すつもりだったかどうかは定かでない。だが、見事な払いっぷりの A さんを見直したことだけは間違いない。

A さんに聞いてみた。
「その後、赤坂の店には行きましたか?」と。
すると驚いたような表情をみせて、
「とんでもない。笑って話せる思い出話になるまでは絶対行けませんよ」と否定した。どうやらまだ生々しすぎる話題のようだ。

一方、タクシー乗務員の B さんはまだ独立していない。依然としてタクシーに乗っている。
不動産会社の社長に可愛がられ、いろんな店に連れて行かれ、たくさんの経営者と引き合わせてくれた。
ある日、「お前にできることは大払いだけだ。やれるだけいっぺんやってみろ」と言われた。
「わかりました。がんばります」と食費も遊興費もすべて B さんが払うようになり、ついに支払い総額が300万円になった。

B さんと奥さんはダブルインカム。B さんは毎月決まった金額を家庭に入れるが、それ以外のお金はすべて自己管理していた。その中での出費なので奥さんはなにも知らないのが救いだった。

ある日、不動産の社長から呼び出された。その日も B さんは支払う覚悟でレストランへ行くと、いきなりこう言われた。
「大払いもそろそろ終わりにしよう。今日はあなたにひとりの男として提案したいことがある」
いつもと顔つきが違う社長をみて B さんも居ずまいを正した。

すると社長は咳払いをひとつしてこう言った。
「新会社の社長をやってくれないか。タクシー乗務員をやめて」

まったくもって予想外の言葉だったので、すぐには意味が飲み込めなかった。
「タクシーをやめるのですか?」
「そうしてほしい」
「で、社長? ぼくが、ですか」
「その適性がある。大払いをみてそう確信した」
「大払いを?」
「楽しそうに金を払っていた。なかなかそれができる人間はいない」
「しかし、僕はタクシーのことしか知りませんよ」
「これから経営を勉強すればいい。僕も教えるし、少なくとも大払いの金額以上の勉強費用をあなたに投資する」

本日現在、B さんは社長に就任して8日目である。
年収はいままでの2倍を超えそうだ。

会社に来てわかったことは、抱えきれないほどの問題や課題があるということと、それらはすべて自分が決めなければならないこと。
正直いって「社長が務まるかしら?」と不安な気持ちがある。だが一方で「なんだか面白くなりそう」というワクワクした気持ちもある。

A さんと B さんに共通していたものは何だろうか?

<あすにつづく>