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A さん、B さんの「大払い」


中国では大晦日に支払いを済ますことを「大払い」(おおはらい)と言う。日本でも江戸時代までは、貯まったツケを精算するのは大晦日という文化があったようで落語にもそうしたネタが幾つかある。

今日ご紹介する「大払い」は別の意味で使う。
夜の酒場で大金を支払うことを一部の人たちは「大払い」と呼ぶらしい。まず最初に「大払い」の憂き目にあった A さんをご紹介しよう。

A さん(40)は大手広告代理店から独立して販売促進コンサルタントに転身した。会社設立直後、お世話になった方々に挨拶回りをした。
特にお世話になった二人の経営者を訪れると、「赤坂で飯を食おう」と誘ってくれた。連れられたのは高級ステーキの店だったが、A さんは最初から自分が払うつもりだった。相手がボトルワインを2本も注文したので会計は7万円とかなり高くついた。

A さんの悪夢はそこからだった。

「今日は A 君の門出だ。以前にあなたが大喜びしたあの店に行こう」
そこは赤坂でナンバーワンの高級クラブだった。
「今日はめでたいことがあってね、お祝いしたいんだ」
二人の経営者がママにそう告げると VIP ルームに通され、ヘネシーとドンペリが出てきた。他の客がいないのかと心配するほどホステスがずらりと部屋に勢揃いした。いずれもとびっきりの美人だった。

A さんも酒がすすみ、かなり浮かれた気分になったとき、経営者に小声で言われた。
「おい A 君、あなたも経営者の仲間入りだ。どうだ、この店の支払いを一人で済ませる覚悟はあるか」
いくら酔っているとはいえA さんは黙った。ここはレストランではない。7万円ぐらいで済むはずがない。ゼロが一個、いや、二個違うかもしれない。
酔いが一気にさめ、気分が悪くなってきた。そんな A さんを見て経営者はこう言った。
「無理はしなくていい。君が払えないなら、俺たち二人で勘定を済ませるから」

度胸を試されている気がした。売り言葉に買い言葉だった。
「もちろん今日は僕が払いますよ。当然でしょ、ご心配は要りません。そんなことより、これからもお引き回しのほど、よろしくお願いします。あ、このボトル空っぽだよ。お替わり入れてね!」
その言葉を合図に三人の酒のペースは一気に加速した。ホステスもそれに加わったので、VIP ルームはどんちゃん騒ぎになった。

会社設立準備で貯金の多くを崩しており、内心はとても心細かったが、そんな様子はみじんも見せられない。現実を忘れたくてはしゃぐしかない。
85万円を支払って店を出、二人の経営者と別れたあと電柱を何度も何度も殴った。
「ふたりのバカ!!」「俺のバカぁ!!」
皮膚が敗れ、血がボタボタと出ていたが不思議なことに、まったく痛くなかった。

A さんがその後、どうなったかはさておき、次に B さんをみてみよう。
B さんは大学新卒でタクシー乗務員になった。15年ほど乗務員を経験し40近くになっていた。ある日、お客さんとして乗ってきた不動産会社の社長(50歳)と意気投合した。

「あなたおもしろい。今度、メシをご馳走したい」
連絡先を交換し、プライベートでの食事や飲み会に誘われるようになった B さん。
社長はやり手で、成功者ばかりとつきあっていた。食事やお酒の店も高級店ばかりだった。株式投資で儲けていた B さんも数百万の貯金があったが、社長やその友人とは桁がちがう。気をつかわされたが、とても刺激的で学ぶことが多かった。交際が進むうちに社長を尊敬するようになり、ビジネスや経営の魅力にもひかれていった。

ある日、数人の経営者と銀座で寿司を食べた。いつもは社長が支払うが、そのときは「あなたが払ってみないか」と言われた。
B さんは20万円の支払いをカードで済ませた。
「大丈夫なのか?」と社長が聞くので「はい、大丈夫です」と答えた。
そのあとのバーでも20万近くを B さんが支払った。
店を出るとき「お前にできることは大払いだけだ。やれるだけいっぺんやってみろ」と言われた。
こういうのを「大払い」というんだと B さんは知った。勉強代と思って B さんはニコニコしながら支払った。累計支払い額が200万円を超えたあたりで「このカードは使えませんが・・・」と店に言われた。
限度額に到達したらしい。
「あ、いけない。こっちで」ともう一枚のカードで支払った。B さんの支払いは300万円になっていた。

払う方も払わせる方もどうにかしているが、その後、 A さんとB さんはどうなったか。

<あすにつづく>