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国王さま、ダ・ヴィンチが怠けてます

イエスキリストを裏切ったことで有名なイスカリオテのユダは、イエスのもとで金庫番を任されていた。今のように厳しいチェック体制がないので、度々、横領を行っていたようだ。イエスに発覚するのをおそれ、イエスをつけ狙っていた他州派の僧侶たちにイエスの居場所を教えたユダ。そしてイエスは処刑された。ユダが裏切りの見返りに手に入れた褒美は銀貨30枚。奴隷売買の値段と同じであり、それほどまでに”イエスは価値のない人物”と敵対勢力はいわんとしていたのであろう。

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『最後の晩餐』では中央のイエスの右隣ふたりめの男性(銀貨の袋を右手に握っている)がユダである。その『最後の晩餐』に関してこんなエピソードがある。

最後の晩餐
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ダ・ヴィンチの作品を飾る予定だった大寺院では、なかなか絵が完成しないことに長老はいらだっていた。

ダ・ヴィンチは絵の構図を思い立ってからも綿密な研究や調査を続けていたのだ。描こうとする人物を少しでもリアルなものにするために「こういう人はいないか?」と知人に情報提供を求めて歩いた。
似た人がいると聞くとどんなに遠くても愛用のスケッチ帳を持って会いに行った。こうして13人中12人が完成した。最後まで残ったのがユダだった。あの醜悪な顔つきに似た人が見つからないのだ。

まだ完成しないことに業を煮やした大寺院の長老はミランの国王に「ダ・ヴィンチが怠けている」と訴え出た。
国王はダヴィンチを呼んで遅延の理由を問いただすと、「怠けているのではありません」と事情を説明したダ・ヴィンチ。

国王から事情を聞かされた長老はさらに強く訴えた。
「国王様、あとひとつ顔を描くだけでよいのにもかかわらず一年もの間、寺院にも立ち寄らないとは非常識ではありませんか」
国王はふたたびダ・ヴィンチを呼びだした。するとダ・ヴィンチはこう言った。

「はい、一年間寺院に顔を出さないのは事実です。しかし、毎日あの絵のために研究を続けているのも事実です。ユダの極悪非道な性格を現すのにふさわしい顔を得るのに毎日ミラノの貧民窟に通っているのです。そしていまだに望ましい顔が見つかりません。それさえ見つかれば1~2日で完成するのですが・・・」

国王も困り果てた。そこでダヴィンチはこう言った。
「実は私の思うユダの顔は、大寺院の長老の顔なのです。しかし、それを長老にお願いするわけにもゆくまいと思いまして」

「やむを得ぬ。思う存分、納得ゆくまで探すが良い」と国王の許しを得てしばらくすると思うような顔がみつかった。
それが私たちが見ているあの『最後の晩餐』のユダなのである。

芸術の傑作というものは簡単にできるものではないということを後生に伝える興味深いエピソードである。

(参考:『教訓例話辞典』有原末吉編、東京堂出版)