酒が好きではない、もしくはほとんど飲めない。そして濃厚すぎる人間関係づくりは苦手である。よって上司の誘いや会社主催の飲み会には参加しないと決めている人がいる。
飲酒運転に対する罰則強化もあって、上司や会社も及び腰。「ちょっと一杯ぐらいいいじゃない」ということもできない。自動車通勤者が多い地方都市などではなおさら誘いにくいことだろう。
「飲みニケーション」や「社内コンパ」を大切にしたい経営者や上司にとって、やりづらい環境になってきた。
苦渋の策として「茶話会」(ノンアルコールドリンクとお菓子)でコンパがわりしている会社もあれば、代行費用を会社負担にしてまで開催しているところもある。なかには、「しようがない。集まれる者だけ集まれ。そのかわり特上の料理を食わせたる」と豪華料理で社員の関心を集めている会社もある。コストが上がる一方だ。
本来、コンパとは全員参加が前提であり、一人二人欠けるだけでも効果は著しく落ちてしまう。また酒の力を借りて心をさらけ出していくことから本音レベルでの交流ができる。そのあたりを妥協してしまっては、コンパではなく単なる飲み会である。
だがあきらめる必要はない。知恵を使えば方法論なんていくらでもある。
埼玉県戸田市にある T 社(建築業)では社員との飲み会に力を入れてきた。規模は10名前後の小ぶりな会社である。
T 社は隔月ごとに第2土曜日にコンパをやると決めている。社員にもそれは周知徹底されていて、全員がその予定を手帳に書き込んでいる。
戸田市は人口14万人程度の中堅都市。公共交通機関も充実しているが、社員はほぼ全員、自動車通勤している。にもかかわらず全員出席でコンパを開催できるのはなぜか。
それはいたって簡単な理由だ。T 社では土曜日は隔週休みとなっている。出勤日にあたる第2土曜日は朝から仕事をするが、午後3時から4時に、社員全員をいったん帰宅させる。その後、電車やバスで再集合してもらい、コンパを開催するわけだ。主婦の社員であれば、帰宅して家族のために夕食を作ってくることができる。コンパ会場はなるべくバスセンター近くで行うことになる。もちろんすべての移動時間が勤務扱い。以前は土曜日以外にやってみたこともあるが、土曜日が一番仕事の突発事項が起きづらいことからそうした。これが全員参加で年に6回コンパが出来る理由である。
T 社の社長にコンパ開催のメリットを聞いてみた。
「飲みニケーションに力を入れてきて、どうせやるなら全員参加以外にないと思い、いまのような方法を考えました。いや、それでも武沢先生に『稲盛流コンパ』のお話しを聞くまでは、うちも単なる飲み会でした。それで十分だと思っていたのですが、もっと上をいく飲み会のやり方があると知り、今やっているこの定例行事を継続する必要性を感じました。ただ、一気に稲盛流にすると社員も戸惑うでしょうから、徐々にやっていこうと思います」
最後に稲盛流コンパの定義をあらためて確認しておこう。
1.100%全員参加で行う(来られない人がいたら別の日にする)
2.毎回のコンパにテーマと時間割を決めておく
3.参加者からは多少なりとも会費を取る
4.座席表を主催者が作り、各自は決められた席に座る
(いつもの仲間同士でかたまらない)
5.毎回のテーマに沿って歓談する
(たとえば「仕事と人生について」など。出席者数によってはグループ分けする)
6.リーダーは最後に大きな夢を語って定刻に終わる
「恋愛の話や野球の話題はできないの?」と聞かれたことがあるが、主催者によっては会の冒頭と終わりにそうした「自由歓談」の時間を設けている。稲盛さんとて、それを禁止することはあるまい。