★テーマ別★

メルカリを知らない社長

5月の連休中に二人の息子が部屋の掃除に精を出していた。
「お、ずいぶんスッキリしたな」と私がいうと、「メルカリのおかげだよ」と長男。要らなくなった本や雑誌、DVDや CD などをメルカリですべて処分したという。以前ならこんなときは「ブックオフ」だったが、メルカリでマニアに直販した方が良い値が付くらしい。

その話を最近 Y 社長(59)にしたところ、「メルカリって何?」と聞かれた。今もガラケーしか使わない Y 社長のことゆえ、メルカリを知らなくても驚かなかったが、横にいた専務(社長の長男、30歳)も知らないと言うので、「ウソでしょ」と大きな声を出してしまった。
「武沢先生、スマホなんて触っているヒマはないですよ」と専務は言うが、この会社(製造業)全体がデジタル化の波から取り残されていく映像が私の脳裏をよぎってしまった。

ある町の消費財メーカーの T 社長(34)は、いま懸命に Excel を学んでいる。先月、 MacBook Pro も購入した。
通販サイトを立ち上げるために外部のホームページ業者と契約しているが、社内でネットに詳しいのは社長ひとり。実はパート社員の女性がかなり精通しているのだが、勤務時間は一日3時間ほどなので、社内のデジタル化の音頭を取る人は社長以外だれもいない。危機感を感じた社長は、おそまきながら Mac を買い、マニュアル片手に Excel を独学中なのだ。

ずいぶん嫌みだとは思ったが、心を鬼にしてこう申し上げた。
「社長、私が20年前にやっていることを社長は今、やっているのですよ。遅すぎませんか。いままで何をしていたのかと聞いてもしようがない。猛スピードで追いつかねば他社(同業とは限らない)にやられますよ」

社長もそのことは痛いほど分かっているようで、ネットマーケティングの専門家と契約して社内のデジタル化に取り組むことを決めておられるようだ。なにもパソコンを買って Excel を覚えなくてもデジタル化の波に乗れるはずだ。

社会の変化は早い。
インターネット普及にともなって企業や組織に CIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)を置くところが増えている。
CIO とは、社内の情報システムや情報管理を統括するポストのことをいう。

ところが CIO というポストだけではカバーできないほどデジタル社会の変化は早い。AI(人工知能)や、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」などの普及で、CIO を置くだけではカバーできなくなってきたのだ。

そこで先進企業では何年も前から CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を置いて来たるべきデジタル社会に備えている。
Apple、Amazon、Google といったテクノロジー企業はもちろん、ロレアル、スターバックス、ボルボ、マクドナルドなどでも CDO が活中。日本企業も最近になってようやく上場企業を中心に CDO を設置す
るところが増えてきた。

こちらの日本経済新聞の記事にもあるように、企業のデジタル化をはばむ最大の障害は「経営者の意識」である。デジタルリテラシーの低さが企業全体のデジタル化を阻む。

メルカリを使っていなくても恥ではないが、メルカリを知らないことは経営者として恥なのである。

★日経記事
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ31H21_R30C17A5000000/