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続・人事異動を拒否された会社

※石原明さんのポッドキャスト『経営のヒント+』(特別ゲスト版)
をお聴きになって『がんばれ社長!今日のポイント』を購読して下さった皆さま、ありがとうございます。
(そうした方がかなりの数にのぼります)

自分からは決して話さない話題でも、収録の最中に真正面から質問されると、答えざるを得ないものです。感心しない箇所は聞き流していただけれ
ば幸いです。
それでも不思議なもので、別の方から「うちのポッドキャストにも出て欲しい」というオファーをいただきました。
ポッドキャストがこれほど多くの方に聞かれているとは。認識を新たにします。

★石原明の経営のヒント+(前編、中編、後編の3本あります)
http://www.ishihara-akira.com/hint/170124/index.php

(昨日のつづき)

大阪支店長就任の内示を拒んだ B 君。そもそも就業規則に人事異動に関する記載がなかったことが問題となった。就業規則をつくったときには支店ができるなどと思いもよらなかった A 社長。すぐに人事部長に命じ、原田先生(社会保険労務士)と相談しながら就業規則の改定作業に取りかかることにした。

「原田先生、まず基本的なことを確認したいのですが、そもそも就業規則って改定できるのでしょうか?」と人事部長。
人事部に来てまだ二年目の部長は基本的なことをまだ知らない。就業規則を変えることがとても面倒なことだと思っている様子だ。

以下、原田社労士、人事部長、A 社長の三人の会話。

原田:ご安心ください。就業規則の改定はいつでも何度でもできます。
それより、何か問題でもあったのですか?
社長:大阪に支店をつくることになりましてね、うちも転勤が必要な会社になったのですよ。ところが人事異動の条項がひとつもないことに気づきましてね。
原田:なるほど、そういうケースはよくあります。会社の成長ステージに応じて就業規則を変えねばなりませんからね。
部長:しかし原田先生、会社にとって憲法みたいな就業規則を変えるとなると手続きが大変なのではないでしょうか?
社長:なにが大変なものか。ワープロで改訂して労基署に届けるだけだから一日で出来るよ。
部長:とは言っても社長、変えるのは就業規則ですから社員に説明し、納得してもらわねばならないと思いますよ。
原田:そうですね。改訂内容によりますが、原則として会社の意向だけで就業規則は変更することができます。もちろん社員への説明責任はありますが。
部長:会社の意向ひとつで、いつでも変えられるものですか?
原田:そうです。くどいようですが、社員に変更箇所を説明し納得してもらう必要はありますが。
社長:だから僕が言っただろ、部長。就業規則なんて一日で変更できるって。
原田:急げば一日でやれないことはありませんが、規則を変更し、社員全員にそれを納得してもらい、尚かつ従業員代表(非役員)一名による意見書へのコメントが必要です。私はどんなに急いでも一週間ほどはみていただきたいと思います。
部長:もし従業員が規則改訂に反対したらどうなるのですか?
原田:反対といいますと?
部長:今回の変更では、人事異動に関する条項を追加したいのですが、社員の一部がそれに反対した場合はどうなるのか、ということです。
原田:部長さんはひとつ誤解されているかもわかりませんね。私は先ほど社員全員に説明する責任があると言いましたが、社員全員が変更に承服する必要があるとは申していません。必要なのは、説明するということと、社員代表一人によるサインとコメントをもらうだけで結構です。
部長:本当にそれだけでいいのですか?
原田:私は数百社にものぼる就業規則変更を直接担当してきました。
その私が申しあげているのです。
部長:失礼しました。ということは先生、社員全員が猛反対するような内容でも労基署はそれを受け付けるということですね
原田:そういうことです。労基署がチェックすることは、労働基準法に違反していないか、ということだけです。その一点さえ合格していれば労基署は企業内の規則に対して何も口出しいたしません。
部長:仮に会社の都合で休日を減らしたり、出勤時間を早めたりしても本当に大丈夫なのですか?
原田:御社がそういった規則変更をお考えになっているとは思いませんが、労基法に違反していなければ一切の問題はありません。
ただ、当然のこととして今いる人が会社を去っていくリスク、新しい人材が採れなくなるリスクは会社が背負うことになります。
社長:部長、どうだい。わかってくれたかい。君が思っているよりも就業規則の改訂はデリケートな作業ではないということさ。今回の規則改定にあわせて、君自身の就業規則に対する認識を最新のものにしておいた方が良さそうだな。
原田:それは大切なことだと思います。国をあげて働き方を変えようというご時世ですから、就業規則を見直す会社が急増しています。
部長:わかりました。もっと勉強します。良い本とかセミナー情報がありましたら是非お教えください。
原田:そうします。じゃあ、さっそく変更作業に入りましょう。

こうして A 社では就業規則改訂作業を一週間ほどで終えた。

その後、人事部長は B 君と何度か話し合いの場を設けた。そこで分かったことは、B 君はいま東京在住のフィアンセと交際中で、1~2年以内に結婚を考えているという。それまでの間は東京を離れたくないということだった。これから先、何があっても異動を拒むわけではないと知り、部長も社長もひと安心したという。

就業規則が今の経営にマッチしたものになっているかどうか見直してみよう。