ある会社でこんな問題が起きた。
東京にある IT ベンチャーの A 社が昨年、初めての支店を大阪駅前に開設することにした。
大阪支店長を誰にするか。社長は考え抜いた結果、京都出身の B君に白羽の矢を立てた。
経営会議で社長が人事案を発表すると驚きの声があがった。
翌日、人事部長が B 君を呼び出し、大阪支店長の内示をあたえた。
そこで問題が起きた。
「せっかくですが辞退させていただきます」
B 君はその場で支店長就任を拒否したのだ。
人事異動を拒否した者はこれまで一人もいない。
人事部長自身も2年前まではチーフプログラマーだった。
「どういうことだ?」怒りを押し殺した人事部長の声。
「人事異動がない会社だからこの会社に入ったのです」と B 君は言う。
部長:何をバカげたことを言ってるんだ、
B 君:先輩方は、異動とはいっても勤務先までは変わりません。今回の場合は勤務先が変わるだけでなく、住まいまで変わります。
部長:それがどうした。企業に異動はつきものだろう。
B 君:部長、はばかりながら申しあげます。就業規則をよくご確認下さい。人事異動に応じなければならないとは書いてありません。それどころ異動があることすら書いてありません。
部長:書いてない・・・。そんな、ば か な。
B 君:私は入社時に何度も就業規則を読みかえしました。
部長:仮にだよ、
B 君:もちろん知っていました。いずれは私も営業部から技術部か管理部に異動するときがくることは覚悟していました。しかし、大阪勤務を命じられるとは想定外です。
部長:人事とはそういうもんだよ
B 君:いずれにしましても大阪行きの件はご意向に沿えませんので、よろしくお願いします。
唖然とする人事部長の前から立ち去る B 君。
「断るってどういうこと?」 人事部長の報告を聞いて社長が聞いた。
部長:詳しい事情は聞いていませんが、
社長:君は就業規則を確認したのか?
部長:はい、確認しました。たしかに記載がありませんでした。
社長:かもしれんなあ。
すぐに就業規則を改定したいと社労士の先生に連絡してくれ。
部長:で、B 君の件はいかがいたしましょう?
社長:
部長:わかりました。
ところで、就業規則は変えることはできるのでしょうか?
社長:ああ、もちろんできるさ。
部長:しかし雇用契約の前提を変える作業ですから、
社長:このスピード時代に何をばかなこと言ってるんだ
部長:お言葉ですが、
社長:だったら尚更だ。さっさと原田先生(社労士)
くれたまえ。僕が原田先生に顧問をお願いしたのは、中小企業の労務管理に精通しておられるからだよ。きっと我々の強い味方になってくれるさ。
部長:そうだといいのですが・・・。
就業規則の改定。
面倒なことが始まるのではないかと人事部長は嫌な予感がした。
<あすにつづく>