私が入居しているビルのオーナーは印刷会社だが、その社長が今年から印刷ブローカーに転身した。先月までは従業員をつかい、工場で印刷機を稼働させていたのだが、社員全員を解雇し、機械を売却した。
かつては大手スポーツ用品店のチラシや官庁の定期発行物の印刷を一手に引きうけて栄華を誇ったが、近年は仕事が激減していた。幸い、家賃収入があるのでご夫妻の生活は安定しているが、長年働いてくれた社員と印刷機を手放すお気持ちはいかほどのものか。法人は残っているので倒産でも廃業でもないが、印刷会社として印刷物を生産することはもうない。
2008年のリーマンショックのころには15,000件あった日本の倒産件数はその後減りつづけているという。昨年はついに8,446件となり、ピークの半分ほどになったと東京商工リサーチが報じた。
「倒産が減っているんだ。良かったね」ということだが、それほど単純な話でもない。
実は、倒産件数と反比例するように「休廃業・解散」の件数が増えつづけているのだ。その数は倒産件数の3.5倍に相当する2万9,500件を超える。特に増えているのは、深刻な人手不足に悩む建設業などの業種。後継者難から、傷の浅いうちに廃業するケースが増えているというのだ。
だったら外国人を使えば、機械を使えば、ということである。
昨夜、あるビルメン企業の会議に出席したところ、社長がこんな話をされた。
「先日の武沢さんのメルマガにもあったように、今後、機械化や AI などによってどんどんなくなる仕事のなかに我々のビル施設管理技術者があった。床や壁の清掃が機械化されることは百も承知だが、管理技術者の仕事もなくなると聞いておどろいている。我々はさらに高付加価値で機械化がむずかしい仕事をしていかねばならないということだ」
すると環境測定を担当する若い技師が発言した。
「外壁や外窓をロボットが清掃するようになって久しいですが、いままではひとつひとつ人間の手で環境測定していたものが、機械によって一瞬ですべての測定ができてしまうようになりました。今まで3人でやっていた仕事は1人の人間とひとつの機械でやれるようになります。
いずれは人間がひとりもいらなくなるかもしれませんね」
「休廃業・解散」の増加でため息をつくのは早い。むしろこれから休廃業も解散も加速するといわれているのだ。それって日本の危機?
そうでもない。
休廃業・解散が進む一方で、新設される法人数は前年比4%増の12万4,996社あったと東京商工リサーチ。6年連続で前年を上回る設立があった。つまり新陳代謝が進んでいるといえるが、国際比較のなかでは依然として日本はまだまだ少産少死。倒産も休廃業も解散も新設も少ない。
一国の経済のダイナミックスさという点においては、もう一段、多産多死に近いほうが良いのだろう。
印刷ブローカーに転身されたビルオーナーもまだ若い。たぶん50歳代前半だろう。人生がこれで決着したわけではない。安定した家賃生活も結構だが、ふたたび何かのテーマをもって企てをし、経営者人生を再スタートしていただきたいと願っている。
「がんばれ!社長」