過日、名古屋市内にある広告会社E 社の経営会議に参加した。
従業員は20名に届かないが、山椒は”小粒でぴりりと辛い”を地で行く会社で、ひとりあたりの生産性(年間粗利益)が1,500万円を優に超えている。
E 社長が先代から会社を継いだ15年前、「がんばれ!社長」を検索で見つけて読み始めた。
「一度武沢先生をお招きして幹部の前でお話しいただきたかった」とE 社長。その日は8名で行われる「幹部会議」で、私は基調講演し、会議にもオブザーバー参加した。
「なんだこれ?」
E 社長が 配付した資料に私の目はくぎ付けになった。
1.「当社は売上や利益よりも〇〇〇〇を優先する考えをもっていることから経営理念でも〇〇〇〇主義という言葉をつかって会社の姿勢を内外に発信しています」
2.「ドラッカーは事業の定義を〇〇を〇〇することであると言っているように当社においても毎年の〇〇〇〇〇には〇〇〇〇に関する方針を必ず作成しています」
A4の用紙2枚にはこのような文章が10個あり、すべてに伏せ字が使われている。
よくバラエティ番組のフリップに使われる伏せ字なのだが、メンバーはペンでその箇所の文字を書いていく。そして答え合わせと議論が始まる。会議というよりは研修に近い。
「武沢先生、これがうちの幹部会議のスタイルでして、経営計画の内容を全員で共有するためにやっています。幹部はこのシートをもちかえって部署内でも同じことをやるのです」と E 社長。
私は野暮な質問をしてしまったようで何人かの幹部に笑われた。
「E 社長、本物の経営計画書にも伏せ字を使っているのですか?」
「まさか、本物には伏せ字はありません」と白い歯の E 社長。
「そりゃ、そうですよね」と苦笑しながら私の脳裏には『乱読のセレンディピティ』(外山 滋比古著)で読んだある箇所を思いだしていた。
昭和10年代半ば、戦争の足音が近づくにつれて日本に外国の本が入ってこなくなった。当時の若者は読みたい本をさがして古本屋めぐりをするがなかなか見当たらない。そんな中で偶然見つけた良書は、食費を惜しんででも買い求め、文字通り、むさぼるように読んだ。
そんな時代に多くの青年たちは井原西鶴に興味をもった。西鶴文学の好色さもあるが、なにより〇〇〇と表現された伏せ字が多く、読み手の想像力を刺激した。伏せ字が多い本ほど人気があったという。
ところが戦争が終わって、伏せ字の箇所がオープンになった版が出回ると、実に他愛ないことがわかって幻滅し、西鶴人気も終わってしまった。
このエピソードから、「禁じられたものの方が人は興味をもつ」というのが外山氏の節だった。
E 社の伏せ字研修会議はそういう意味でおもしろい。ここに入る文字は何だろう?という好奇心が人々の想像力を刺激する。
私はいっそのこと、経営計画書も伏せ字だらけにしてしまってはどうかと思う。どなたか、やってみませんか?
「すでにやってるよ」という方はイメージ画像とその効能について是非ご一報ください。