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「VR 元年」を実感

「未来は飛びだすテレビが流行るよね。テレビから本やごはんが飛びでてくるんだよ」
子どものころ、そんな空想を言いあったものである。
大人になって映画『リング』で貞子がテレビから飛びでてきたときには本当に驚いた。子どものとき空想していた「飛びだすテレビ」はもっと楽しいものだったはずなのに、こんなに恐いものとは。

次に「飛びだすテレビ」をみたのは数年前のビックカメラの店頭だった。3D テレビである。ど派手なカーアクション映画が3D で放映されていて、「いよいよ自宅で飛びだす映像をみる時代か」と思った。
だが、欲しいとは思わなかった。あのゴーグルを付けるという行為が性に合わない。でも映画館でゴーグルをつけて3D 映画『アバター』をみたときは興奮した。アバターの監督は「今後の映画はすべて3Dになるだろう」と言っていたが、そうなってはいない。 その後3D ならではという映画にはまだ出会っていない。

先月、友人が「ぼくのオフィスに来ませんか?」と連絡をくれた。

アメリカ製の VR マシンを個人輸入したので、体験させてくれるという。VR(ヴァーチャル・リアリティ)が実用化されていることはテレビで知っていたが、どうせ「3D テレビ」か「3D 映画」程度のものだろうと高をくくっていた。

友人のオフィスで初めて VR のゴーグルやコントローラーも見たときもその印象は変わらなかった。「それより早く飲みにいこう」と思っていたのが顔に出たのかもしれない。冷蔵庫からビールを取りだしてくれた。

「ところで武沢さんは乗り物酔いしませんよね?」
「うん、しないけど」
「OK。VR 酔いというものがあります。もし途中で気分が悪くなれば言ってください」ゴーグルとヘッドセット、両手にはコントローラー。それが VR のアイテムだ。

「装着がおわりました。自動でチュートリアルが起動します。ではVRの世界へいってらっしゃい」

次の瞬間、私の身体は大平原に放り出された。上空には無数の星。まさしく360度の大パノラマだ。大きな月もみえる。
「うわあ、すげえ。デジタルのプラネタリウム以上だ」
「武沢さん、まだ何も始まってませんよ」

グランドキャニオンでみた満天の星空に匹敵する興奮がそこにあった。

ロボットによるチュートリアル(操作の基本レッスン)がすすめられた。与えられたオモチャに興奮する子どもにかえった気分だ。

操作レッスンが済むと、いよいよソフトを選ぶ場面になった。友人がすすめるソフトを選ぶと、一瞬にして周囲は海底になった。沈没船がみえる。デッキのギリギリまで歩いていって底をみると、おそろしく深い海溝になっていた。ブクブクっという音がする。なんだろうと思って首をひねると、左から巨大なくじらが近寄っていた。手が届きそうなところを悠然と横切っていく。

「うわー、なに、これ。くじらの目って象にそっくりなんだね」
「実際に体験できないような事が VR なら簡単に体験できます」と友人。

結局、1時間ぐらいで10本ほどのソフトを体験した。

・スターウォーズ的な宇宙船シューティングゲーム
・弓矢をつかった攻城戦
・ゴルフ
・料理人体験ゲーム
・世界の観光名所(今回はマチュピチュへ)
・空中お絵かき
・ホラー的な医療ゲーム
・立体玩具制作ゲーム
・・・etc.

友人が購入したのは米国 Oculus 社の製品「Rift」でFacebookが一昨年、巨額を投じて買収した会社のものだ。今後、Facebook はこの分野に力を入れてくるのだろう。
日本勢ではソニーの「PlayStation VR」が先行している。今年10月に発売される。PlayStation4が必要とはいえ、本体価格4.5万円はいまのところ最安値であり注目されている。

大手ソフトウエアメーカーの多くは VR 対応を表明しているが、いまだ態度を発表していないところもある。その最大手が Apple だ。
メーカーの対応次第では今年始まったばかりの VR 業界がわずか4年後の2020年には7兆円規模になると予測するアナリストもいる。
2025年にはノート PC 市場の規模と同程度になると予測する人もいる。
少ない見積もりでも4年後には7,000億円といわれており、ハード・ソフトメーカーのゴールドラッシュが起きている。

これはゲームや玩具の業界のことだろうと思っていたら大間違い。

私たちのビジネスや経営にも大きな影響力を及ぼすのだ。あすはそのあたりを考えてみたい。