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予約電話の段階で勝負あり

遠方のある社長から電話があり、急きょ明日の晩に名古屋で会食することが決まった。魚が好きな社長なので、ブリとカニがうまい店を予約しておくと約束し電話を切った。

さっそく食べログで検索してみたが、明日は土曜日のせいか、カニの人気店はどこもネット予約の受付を終了していた。こうなれば片っ端から電話するしかない。

「えっと、明日の午後6時から二名入れますか?」と私。かえってくる答えはいずれも「満席」か「午後9時スタートなら」というものだった。

だが6軒目の店は違っていた。
「明日といいますと土曜日ですよね、少々おまちください」と40歳前後とおぼしき女性の声。1分ほど待たされたが、「ご用意できます」とのことで安堵し、名前と連絡先を告げた。

ただ、電話での会話が極めて事務的で愛想がない。料理の内容のことや個室のことなど質問しても、木で鼻をくくる素っ気ない返答。ここは老舗の店らしいが、初見の客には興味がないのだろうか。時計を見たらまだ開店まで一時間以上あるので、それほど多忙な時間帯でもあるまいに、この応対はいったい何だろう?

こちらとしては土曜日の予約が前日にできただけでもありがたい。多少のことはガマンしていたが、ついに最後は我慢ならなくなった。

係:ご予約の時間をすこしでも過ぎた場合、ほかのお客様を優先させますのでご注意ください
私:わかりました。少し早めにうかがうようにします
係:あ、あまり早くお越しになっても早く入れるわけではありませんのでご注意ください
私:(注意事項が多い店だな・・・)常識はわきまえています。それより、ひとつ伺ってもいいですか?
(これ以上黙ってはおれない)
係:なんですか?
私:私の訪問はお宅様にあまり歓迎されていないのでしょうか?
係:いえ、もちろん歓迎いたしております。ただ時間だけはお守りいただきたいと…。
私:それってお客を歓迎しないどころか、信用すらしていないという対応じゃありませんか?
係:いえ、ですからそのようなお客様が事実いらしたものですから…
私:今回は予定通りうかがいますが、いまの電話ではお宅のお店に対して良い印象を持てませんでした。
係:申し訳ございません。そういうつもりで申しあげたのではないので悪しからず。

予約電話では、まず感謝し、歓迎する。そのあとに必要なインフォメーションを提供すべきだろう。この仲居さんは感謝がないままアテンションばかりを発していた。もし遅刻してくるお客や、すっぽかしをするお客が多いのであれば、一見客への電話予約はやめれば良い。電話予約を受け付けるのであれば、積極的に歓迎すべきで、疑いながら予約を受け付けるような愚は避けねばならない。

翌日、その店に行った。電話応対しそうな仲居さんが三人ほどいたが、うち二人は明らかに若かったので、おそらくあの年配の女性であろう。先方も、「あの客が武沢か」と遠目に見ていたかもしれない。その人とは一度も近づくことはなかった。味も値段もロケーションもまずまずのお店だったが、信頼関係にひびが入ってしまったこの店に二度足を運ぶ気持ちは持てなかった。

そういえば、去年も今ごろ同様の”事件”があったが、そのときは、店側の神対応に感動した。関東から数名の知人が名古屋にお越しになるとのことで、私が席を用意することになった。あちこちに断られ、10軒目ぐらいに電話した割烹店が「6名様なら個室が空いています」という。ところが飲み放題を付ける、付けないのことでちょっとしたトラブルになり、大いに不快な気分で電話を切った。

当日、その店に入るとすぐに店主が名刺をもって現れた。神妙な顔をしているので何だろうと思うと、「先日、当方の仲居が出払っており、厨房の者が電話応対をいたしました。不慣れな接客をさせた当方の責任でお客様をご立腹させてしまったと報告を受け、お詫びにあがりました。まことに申し訳ございませんでした。本日は一番奥のゆったりとした個室をあけてお待ちしておりました」という。

その部屋だけは奥庭がのぞめる掘りごたつ付きの優雅な個室で、私の鼻は高かった。その店はこの一年で数回利用している。

こうした現場最前線で起きているお客と社員とのやりとり。その異常値を経営者はどこまで把握できているだろうか。現場のことは店長やチーフの監督下にあるはず。あらゆる仕組みを総動員して現場での異常を察知できるお店だけがお客との関係構築を強固にしていくことができる。