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あなたがよく語る話の内容はそれでいいか

本文で登場する店名、人名はすべて仮名です。

「世界観が語れない人に魅力は感じられないわね」

そう語るのは六本木でメンバーシップのシャンパン・バー『アキレス』を経営する竹内実可子さん(37)。『アキレス』は開業10年ほどと歴史は浅いが、手軽にグラスシャンパンがいただけることから仕事帰りの経営者や幹部層お常連客が多くいつも賑わっている。

都内でセミナーと懇親会を終えてホテルに戻ろうとしていた私をひきとめここまで案内してくれたのは「パッション通商のケン」こと沢藤健太社長(50)社長である。この店に通うようになって5年めだという。
「武沢先生、シャンパンはまず G.M.マムあたりでいいですか?」
「ええ、よく分からないのでお任せします」
「F1レースのシャンパンファイトで有名なシャンパンですよ」
「ああ、よくみますね。じゃあ我々もファイトしてみますか」
「ここでやったら実可子ママに叱られますよ、ハッハッハ」

やがて着物に身を包んだ実可子ママが G.M.マムを運んできてくれた。
「ようこそ、ケンさん。今日はお勉強があったんですって」名刺を差し出し、しばらく世間話をした。頃合いをみて突然、ケンがこんなことを言いだした。

「武沢先生、このママに僕は頭が上がらないんです。というか六本木に足を向けて寝ることができない。それほどママには世話になってるんですよ」

ケンの話によれば、実可子ママは女性版の坂本竜馬みたいな人で、人脈をむすびつける接着剤のような人らしい。ファッションビジネスをしているケンにとって、今のメイン客先は実可子ママが引き合わせてくれた。ほかにも大型商談や提携話がこの店の内外で行われるそうで、常連客は、実可子ママのお眼鏡にかなうと良いことがあるとささやきあっているという。

興味があったので私は実可子ママに「マッチングしようと思うのはなぜ?」と聞いてみたところ、冗談めかした返答があった。
「お客さんが儲かればうちも儲かるからよ、フフ」すこし思案したあと実可子ママはこう続けた。

「でもね、お客さんのなかでもケンさんのように協力してあげたくなる人とそうでない人がいるの。不思議なものよね」
「その違いはなに?」とケン。
私は一杯目のシャンパンを飲みほしながら、「興味深いね、その違いが分かるまで二杯目を注文するのはガマンしておこう」と笑った。

すると実可子ママの表情が一瞬だけ鋭くなり、納得する答えを出してくれた。それが冒頭のひと言。

<あすにつづく>