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リスペクトの心

極真空手の有段者が経営計画合宿に参加された。防具もせず、相手を攻撃するときには寸止めもしない。自分の攻撃で相手が倒れる程のダメージを与えられたかどうかは実際に相手の体を叩いてみないと判らない、と「直接打撃制(フルコンタクトルール)」を採用している極真空手。

「武沢さんも今から入門しませんか」とお誘いいただいたが、私はホットヨガで充分ですから、と辞退した。ただ真剣勝負の世界にはとても興味がある。文武両道という言葉があるが、武士道のたしなみは学問だけでなく身体を鍛え、心を鍛え、武道(剣術、馬術、弓術、槍術など)に磨きをかけることで己をつくりあげていくことにある。仕事とスポーツジムの往復だけでは肝心の心や武術が磨かれる機会に欠ける。だから武道を学ぶことへのあこがれはある。(事実、2010年に東京の合気道教室に通い、名前刺繍入りの稽古着まで作ったことがある。だが3回で合気道を断念した)

空手の稽古を通して人はワザだけでなく心も練られていくのだなぁという感慨をもったのは、彼がこんな話をしてくれたからだ。

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顔面や首、下腹部の急所への攻撃が禁止されているが、あとは直接打撃で相手を倒す。試合前、緊張しないわけがない。当然、試合相手に話しかける余裕もなく、極度に集中している。だが、試合が始まるともう無心だ。日ごろ練習してきたワザを次々にくり出す。相手が強ければ強いほど自分にとって最高レベルのワザが求められる。そして、試合が進むほどに相手に対するリスペクトの心が生まれてくる。闘争心や攻撃本能みたいなもので戦っているのではなく、怖さを乗りこえるために懸命にワザをくり出す。相手が誤って顔面を打ってきたとしても「なんだこのヤロウ、違反じゃないか」とは思わない。相手をリスペクトしているので、「緊張しておられるのだろうな」としか思わない。リスペクトのし過ぎはこちらの萎縮や遠慮につがるので良くないが、ハードに戦った相手ほど試合が終わったあと称えたくなる。勝ったからといってガッツポーズするなんて芸当はとてもできるものではない。
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なるほど、それが武士道精神なのだろう。一流の人ほどそれがある。西洋のノブレス・オブリージュ(高貴さの義務)や騎士道の心とも近いものがある。デッドボールを当てられても平然としている野球選手。試合後、相手とハグし互いにたたえ合うサッカーやボクシングの選手。皆、戦う相手をリスペクトしている。その心が審判や競技スタッフ、観客にも及ぶ。だから一流選手はファンや裏方を大切にし、道具や環境(グランドや練習場、ベンチやロッカーなど)なども大事にする。

武道をやっていようがいまいが大切にしたいもの、それは戦う相手へのリスペクト。ライバルや同業他社、それに家族や仲間は皆、リスペクトの対象だろう。さらにいえば、目標もひとつのライバルといえる。道具や環境にもリスペクトの精神で接し、時間もリスペクトするならば目標の方からあなたにハグを求めてくるだろう。そう信じて、今日も懸命に練習したワザをくり出し続けよう。